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コラム

建築家コラム|木質繊維断熱材の優れた性能<西方設計 西方里見先生>

これからの高性能住宅に必須の木繊維断熱材。その優れた性能と、活用の可能性を西方設計の西方里見先生に解説していただきます。

 

〔INDEX〕

 断熱材の種類

・ エコビオ建築の先進地ドイツとスイス

木繊維断熱材はエコロジーでバウビオロギー

木繊維断熱材の性能

性能1 熱伝導率
性能2 熱変化の緩和、特に夏
性能3 結露のしにくさ
性能4 防音・吸音
性能5 新しい使い方

木繊維断熱材の日本での実践

 

断熱材の種類

断熱材の種類は、グラスウールなどの鉱物系、ビーズ発泡ポリスチレンフォームやウレタンフォームなどの石油系、木繊維などの自然系などの原料により分けられます。断熱材ですから断熱性能が良いことはもちろんですが、環境性、健康性、防火性、費用対効果が挙げられバランスが取れていることが評価の基準です。

 

環境性は地球や環境に与える負荷やダメージが少ないことです。生産時のCO2放出やエネルギー使用が少ないこと、リサイクルが可能なこと、廃棄処分が有利なことが挙げられます。健康性は環境ホルモン、アレルギー、化学物質過敏症などの観点から人体に与える負荷やダメージが少ないことです。

 

現在はコスト面から鉱物系や石油系の断熱材が多く使われていますが、これからは環境性、健康性、防火性にすぐれた木繊維断熱材が主流になるでしょう。

エコビオ建築の先進地ドイツとスイス

20年ほど前に佐々木徳貢・著「バウビオロギー―新しいエコロジー建築の流れ」や高橋元・訳の「エコロジー建築」を読み、それまでの断熱・高気密住宅一辺倒な考えからエコロジー・バウビオロギー(エコビオ)な広い視野に立つようになりました。

 

早速、ドイツやスイスに出かけました。続いてイケダコーポレーション主催のドイツでの2回目のエコバウツアーに参加しました。そこで見知した事の衝撃は大きいものでした。断熱材に木繊維断熱材、麻の繊維のフラックス(亜麻)ハンフ(大麻)、炭化発泡コルク、セルロースファイバー、羊毛などの自然系断熱材が多く使われていました。特に木繊維断熱材が多く、それらを大量に使い厚みを出していることに驚きました。

ドイツ・フライブルク近郊のエコビオ建材店では、屋内外に大量の木繊維断熱材が在庫として積まれ、出荷待ちの状態でした。住宅において、高断熱・高気密による省エネルギーで暖かいばかりでなく、健康・環境についても考えざるを得なくなりました。

 

さらに驚いたことは、各地域に建築センター性能評価機関があり、制度化された基準で建築部材や資材、もちろん建築の省エネルギー・エコロジー・バウビオロギーの度合いの評価を行なっていることでした

 


シュトゥットガルト建材国際見本市(2008年)

桁違いに会場が広く、日本のジャパンホームショー(JHS)の10倍はあろうかという広さ。窓関連のみでJHSの会場ほどの広さの展示があり、断熱関連のみでも同等の規模でした。その中の2/3程度に自然素材系断熱材の展示があり、木繊維断熱材はSTEICO(シュタイコ)をはじめ、PAVATEX、HOMATHERM、GUTEXNO4社が出展していました。

BAU2013(2013年)
ますます木繊維断熱材の展示が増えている。

木繊維断熱材はエコロジーでバウビオロギー

断熱材は各種ありますが、エコロジー・バウビオロギー建築の観点から木繊維断熱材が特筆されます。「バウビオロギー建築」の直訳は「建築生物学」ですが、簡略な説明では健康や環境に配慮した建築です。

 

 環境評価の高い木繊維断熱材 

◼︎原料は循環型(成長資源・リサイクル)の間伐材や古材などの木材です。間伐材や古材のチップを高温の水蒸気で繊維状にほぐし、繊維をマット状や板状に自己接着性で圧縮成形します。

 

◼︎一次製造エネルギーは1m³当たり約 560kWh で、硬質ウレタンフォームの約 1,585 kWh と比べ35%、ポリスチレンフォームの約 695kWhと比べて 80%と少ないのですが、自然系断熱材のフラックス繊維の50kWhと比べると11 倍ほどになります。それを解決するために、ボイラーのエネルギー源を石油や電気ではなく木質廃材のバイオマス発電(蒸気製造)にすることで非常に小さくなっています。

 

◼︎ドイツ「エコテスト誌」における断熱材の分野の総合評価は、推奨品10品目の中でも、セルロースファイバーを抑えてトップです。これを見ても、現状のドイツでは、低負荷断熱材として評価されていること、今後のさらなる普及が望まれていることが分かります。

 

◼︎防火または防虫用にホウ酸塩またはホウ酸が含まれていますが、他の薬剤は入っていません。VOCフリーです。

 

 リサイクル材だから、今後の普及に期待 

ドイツやスイスでは、エコハウスを中心にかなり普及しており、日本でもこれからエコロジー・バウビオロギーの断熱材の主流として期待されています。身近な材料で例えてみると、床下地や畳の心材として使われている軟質繊維ボード(A級インシュレーションファイバーボード)をより軽くして断熱効果をもたせたものです。

 

A級インシュレーションファイバーボードのなかでも、最も比重の軽い畳床の軟質繊維ボードで比重は 0.25 前後ですが、断熱材になるドイツの軽量軟質木繊維ボードの比重は 0.16 前後です。 一般に自然系断熱材は、生産量が限られることが欠点ですが、リサイクル材であるこの断熱材はその点で有利といえるでしょう。

 

今後、日本でも伐採サイクルが考えられた木材や木材産業からの廃材、リサイクルされた木繊維を原料として大量に生産される可能性が高いことも寄与します。腐朽によって土に還るため廃棄処分も容易で、成型されたものを粉砕すればリサイクルも可能なため、地球にも人体にも負荷が少ない断熱材といえます。

木繊維断熱材の性能

性能1 熱伝導率

木繊維断熱材の熱性能は吹込みセルロースファイバーと同等で、高性能グラスウール 16 Kと比べると若干少ない程度です。現状普及している木繊維ボードのタタミボードであっても、熱伝導率が0.045 W/mKと、グラスウール 16 Kとほぼ同等の断熱性能があり、意外に性能が良いのです。

 


性能2 熱変化の緩和、特に夏

木繊維断熱材の良さは、低い熱伝導率と高い比熱容量により熱の伝達時間が遅く、温度の変化が少ない点です。夏の屋根は高温ですが、熱の伝わりが遅いため、室内まで高温になることはありません。夜には室外の低温の影響を受け室内の温度は低下し、この繰り返しから、夏の暑さを緩和します。これは、物体内におけるの広がりやすさの度合いを示した熱拡散率が低いためです。熱拡散率は、熱伝導率を単位体積当たりの比熱容量(容積比熱)で割った値です。木繊維断熱材はグラスウール断熱材に比べ重く、有利になっています。

参考:シュタイコカタログより


性能3 結露のしにくさ

木繊維断熱材はセルロースファイバーと同様に、水蒸気の吸放湿・保湿性が高く、結露しにくくなっています。断熱性能が落ちない範囲内でグラスウールは約0.5ℓの少ない保湿ですが、木繊維断熱材は1㎥で約7ℓの水蒸気を保湿できます。結露は相対湿度が100%ですが、カビや木材の腐朽菌は相対湿度が長期間に80%を超えると危険ゾーンに入ります。壁や屋根の内部で相対湿度は80%を超える期間がありますが、木繊維断熱材の吸湿で相対湿度を80%以下の70%台まで落とせ、結露の危険性をかなり減らせます。

 

この保湿性と結露しにくいことに期待し、室内側の防湿シートを省略できそうですが、寒さの度合いで地域を考えなければなりません。一般的に関東以西の温暖地では、木繊維断熱材の場合は防湿シートがなくても壁内結露の問題がないという利点があります。しかし地域ごとに、WUFIなどの非定常の結露計算ソフトで結露や相対湿度が80%を超えないことを確認する必要が有ります。 木繊維断熱材の水蒸気の吸放湿・保湿性を生かすために、地域によって防湿シートを使用するか、可変(調湿)シートを使います。可変(調湿)シートは乾燥時に透湿抵抗が高くなり、透湿抵抗が高い防湿シートと同様な役目を果たします。湿度が高くなると透湿抵抗が低くなり水蒸気を低い方に透湿します。それは夏型結露を防ぐのに有効です。


性能4 防音・吸音

木繊維断熱材は重量が重い分、防音・吸音になります。

 


性能5 新しい使い方

新しい使い方として、窓と躯体間の熱橋のΨInstallを小さくできます。

ドイツの木製サッシメーカーPazen社の解説書より

詳細:西方設計ブログ

木繊維断熱材の日本での実践

木繊維断熱材の屋根充填断熱工法の矩計図

屋根充填断熱工法の断面詳細図

 

屋根面剛性を確保するための野地板の上の可変・気密シートと木繊維断熱材

 

屋根面剛性を確保するための野地板下の構造垂木間充填。

外内壁間の充填断熱の木繊維断熱材と可変・気密シート

 

外壁の木繊維断熱材の付加断熱

 

筆者:西方設計 西方里見

高断熱・高気密住宅が現在のように一般化するよりもずっと前の35年前から、環境にも負荷が少ない家づくりのノウハウを積み重ねている。住宅の高断熱・高気密化や、人体への負荷が少ない建材の提唱・実践者として『日本の住宅を変えた50人+α(「建築知識」700号記念号特集)』の一人にも選ばれています。

有限会社西方設計 https://www.nisikata.co.jp/

 

 

 

木繊維断熱材シュタイコ

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