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【新著紹介コラム】「欧州のビオホテル~エコツーリズムから地域創造へ」 滝川薫 著

  • 環境問題

エコバウツアーのコーディネーターで省エネ・エコ建築をはじめ、ヨーロッパの最新の環境事情を発信しているスイス在住の環境ジャーナリスト滝川薫さんの新刊書籍のご紹介です。  


「欧州のビオホテル ~エコツーリズムから地域創造へ」 滝川薫 

ビオホテルとは?

北イタリアのビオホテル・タイナースガルテンはバウビオロギーに基づき新築された木造建築で人気 © Theiner’s Garten

1999年、オーストリアのアルプスに囲まれた小さなホテルが100%ビオの食品・飲み物への転換に成功した。これを機に2001年、ビオホテル協会が誕生し、20年でドイツ語圏を中心として85軒の宿が生まれた。
ビオとは、ドイツ語で「オーガニック」を意味し、有機認証を受けた農家や加工業者、その生産品を指す。ビオホテルとは、100%ビオの食とCO2を尺度とした資源マネジメントに取り組むホテルのことで、ビオホテル協会が定める基準を満たすホテルのみが認証を受けることができる。
認証を受けたビオホテルは欧州6カ国、北海からシチリアまでに広がる。アルプスや海岸の大自然に囲まれた休暇型の宿もあれば、農業併設型や賑やかな都市型まで多様なタイプの宿があり、環境や健康への関心の高い消費者層に強い人気を誇る。

 
 

最も厳しいホテルの環境認証

ビオホテル2

ミュンヘン近郊の都市型ビオホテルであるアルターヴィルトの朝食はもちろんすべてビオ。焼きたての黒パンと新鮮なフルーツが美味しい。

今日のビオホテルは、明確かつ厳しい基準の内容と検査体制により、欧州では最も信ぴょう性とブランド力の高いホテルの環境認証になっている。その基準は、フード基準とノンフード基準の二分野から成る。
フード基準では、100%有機認証を受けた食品と飲み物の利用が原則となっている。ノンフード基準では、エコロジカルな調達や建設、ビオ・ナチュラルコスメの認証を受けた化粧品の利用、再生可能エネルギーからの電力やリサイクル紙の利用、そしてCO2排出量の把握と削減が義務付けられている。基準の順守については、有機認証機関により年2回の検査が行われている。
特にCO2排出量の削減については力を入れており、エネルギー消費からの排出量のみでなく、食材やゴミ、水や下水、従業員の通勤なども計算の対象としている。現在、会員ホテルの排出量は一泊一人当たり10㎏以下で、ドイツの一般的なホテルの排出量(25~48㎏)を大幅に下回る。
加えて半数のホテルでは、省エネや省資源によって削減を行った後に残る排出量について、カーボンオフセットサービスを利用することで、カーボンニュートラル化している。途上国の再エネプロジェクトにより削減されるCO2排出量を購入する事により、自社の排出量をゼロにするという意味である。

 

 

 

持続可能な衣食住を体験できる場所

ビオホテル3

ビオホテル・アルターヴィルトのバウビオロギー改修した客室。無垢材の内装や左官壁が特徴。電磁波対策である金具を使わないベッド。© Alter Wirt

ビオホテル経営者は、自らがオーガニックなライフスタイルをこよなく愛し、実践している人たちであるため、ホテルでも基準以上の充実したサービスが提供されている。それにより宿泊を介して、エコロジカルな衣食住の心地よさを体験し、楽しめる場所となっている。
顧客の一番の楽しみは、当然ながら100%ビオの食事・飲み物であるが、多くのホテルでは施設建築においても環境と健康への配慮が行き届いた改修を実施している。断熱改修や、無垢材やしっくい、土壁や自然塗料といった自然建材による内装、寝室の電磁波を低減させる対策の実施などである。バウビオロギーや木造エコ建築を売りとしたホテルも少なくない。
客室では地域の職人の手による無垢材のベッドや家具、自然素材のマットレスやビオのリネン類が利用され、エコ洗剤による清掃が行き届いている(写真)。エネルギー面でも再生可能エネルギー利用が進む。こうした取り組みによりビオホテルは、エコロジカルなイベント・会議を計画する企業にとっても理想的な会場となっている。

 

理想高きホテル経営者の協同体

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ビオホテル・エッゲンスベルガーでは電気自動車を宿泊客にレンタルすることで、公共交通での訪問を促し、交通からのCO2排出を削減。© Biohotel Eggensberger/Moving Pictures

ビオホテル協会の会員は、ビオと持続可能性の実践を企業目標に掲げるオーナー家族が経営する中規模の3~4つ星ホテルがほとんどである。また地域もタイプも多様であることからホテル間にライバル意識はなく、共に学んで、向上してゆく関係が築かれており、盛んな交流が行われている。
このようなビオと持続可能性という価値を基盤としたビオホテル経営者の結束や意思は強く、観光業界が大打撃を受けたコロナ禍の下においても協会の会員数は減らず、むしろ微増した。同時期に欧州ドイツ語圏の国々ではビオ食品市場が2割も成長している。消費者の健康・環境的な食や農、温暖化防止への関心はますます高まっており、ビオホテルの将来は明るいと言えそうだ。

 

 

 

SDGs実践へのインスピレーション

ビオホテルの取り組みは20年前から行われてきたものであるが、近年日本で盛んになっているSDGs(持続可能な開発目標)の実践という観点からも、主に食と農、そして観光の分野において、多くの目標に貢献するものである(目標2・7・8・11・12・14・15)。
特に食と農のシステムは、世界的な温室効果ガス排出量の37%を占めているほか、慣行農業が原因となる生物多様性の損失や環境汚染は欧州では年々深刻さを増している。農業のエコロジー化政策は、エネルギー分野と並んで、持続可能な社会の実現にとって最も重要な分野の一つである。また2050年までの気候中立という世界的な目標に鑑みても、観光分野からのCO2排出量をゼロにし、資源消費を削減してゆくことは避けて通れない。
欧州のビオホテルは地域に根付いた中小企業として、こういった課題に果敢に取り組むことで自社の競争力を強化しつつ、地域の観光業のエコロジー化と有機農業の普及に貢献している。その取り組みは、日本における有機農業を軸とした持続可能な地域づくりや、中小企業におけるSDGsの実践にとっても、インスピレーションを与えるものである。そして観光業における省エネ・エコ建築の大きな潜在性を示すものでもある。

 


欧州のビオホテル【書籍】 欧州のビオホテル エコツーリズムから地域創造へ
滝川 薫 著
B5判/並製・ジャケット巻/144頁(フルカラー)
本体 2,600円+税(税込 2,860円)
ISBN978-4-907083-70-0 C0040

〔目次〕
Part 1: 欧州のビオホテル
[オーストリア]ビオホテル・シュヴァイツァー/ホルツライテン/[南ドイツ]アルターヴィルト/エッゲンスベルガー/[スイス]ロービエ/[北イタリア]タイナースガルテン
Part 2 :ビオホテルと地域創造
ビオホテル協会/スイスのビオ地域/スイスの有機農業/[付録編]日本のビオホテル

 

 

著者プロフィール
滝川 薫
滝川薫さん北スイス・シャフハウゼン州在住の著者・ジャーナリスト、ガーデンデザイナー。
スイス・オーストリア・南ドイツをフィールドに、エネルギー大転換・持続可能な建築や地域発展・環境をテーマとした視察セミナー、通訳・翻訳、執筆を行う発信活動を約20年続けている。MIT Energy Vision社共同代表。スイスの山間集落に暮らし、夫と共にスイスで庭園設計に携わる。
著書に「サステイナブル・スイス」(学芸出版社)、「欧州のビオホテル」(ブックエンド社)など多数。 https://www.takigawakaori.com/

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