建築の省エネルギーとカーボンニュートラルをテーマに2023年を振り返る【前編】
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コラム
ZEH
断熱材
2023年も残すところわずかとなりました。
昨年10月に断熱等級6・7が新たに追加され、長期優良住宅認定の基準の引き上げが行われました。それに伴い断熱材やサッシ、換気システムなど、より性能とコストを重視した比較検討に重きを置く一年になったのではないでしょうか。弊社の木繊維断熱材シュタイコも、そうした経緯から着目しお問い合わせいただくことが増えたように感じます。
さて、次々と高性能な製品が開発されている中で、常に自身で情報をアップデートし、断熱性能を新等級も考慮しながら設計するのは大変な時間と労力を要するものと思います。さらに2024年4月には省エネ性能表示制度がはじまります。お施主様や賃貸事業者・利用者に説明を求められた際に適切なご案内をするためには、しっかりと知識を身につけておくことが必要になります。
そこで今回、新断熱等級に対する大手ハウスメーカーの取り組みなど2023年を振り返り、また2024年にはどのように取り組むべきか、オーストリアをはじめ欧州のエネルギー事情にも精通し、岩手を拠点に東北で数々の設備設計や断熱計算を手がけてきた、エネルギーアドバイザーの横山直紀さん(イーシステム株式会社 代表)にコラムを執筆いただきました。住宅のUA値・冷暖房負荷計算・光熱費計算アプリ「かんたん燃費」を開発した経緯、そしてエネルギーアドバイザー横山さんならではの分かりやすい視点で、今後の断熱住宅について考えていきたいと思います。
目次
【前編】
①エネルギーアドバイザー・横山直紀氏
②断熱等級6・7(戸建住宅) 告示公布(令和4年10月1日施行)
③2024年4月から「建築物の省エネ性能表示制度」開始が決定
④「2024年に向けたトレンド(取り組むべきこと)」
・省エネ性能表示制度に対応できる体制作り
・自社の建築コストと住宅性能、ランニングコストを把握すること
・勉強会に参加し、断熱材やサッシ、換気システムなどの「目利き」になる
・断熱等級6以上に対応した自社の仕様、施工マニュアル、提案ボードなどの作成
◇まとめ
◇簡単燃費アプリの開発に至った経緯
①エネルギーアドバイザー・横山直紀氏
・エネルギーアドバイザーの役割
エネルギーアドバイザーという職業をご存じでしょうか?
建築家の仕事をエネルギー面でサポートするのがエネルギーアドバイザーの仕事であり、省エネ建築を行うにあたって非常に重要な役割を果たしています。
新築時や既存の住宅の改修を検討しているとき、その建物が省エネであるかを客観的に判断し、建物の建つ地域の気象条件に基づき、断熱性や日射取得がどのくらい必要か、また、それによってどのくらいの設備が必要なのか計算を行いながら、足りない部分(断熱性能や住宅設備等)を指摘、改善のアドバイスを行います。
当社の携わった代表的な事例として、オフグリット住宅を実現したもるくす建築社の「佐戸の家」があります。建築家と話し合いながら建物の形や断熱の材質や厚み、日射取得などのシミュレーションを重ね、冬季に日射が少ない秋田県でもほとんどエネルギー消費が無い建物として第18回 JIA環境建築賞最優秀賞を受賞しました。
また、多くの事例で、計算でのエネルギーの削減のほか、気密測定やサーモカメラを使用しての施工確認、冷暖房設備や換気設備による室内の快適な温熱環境の設計を行っており、当社でサポートした住宅が日本エコハウス大賞などで多数の受賞をするなど、この10年でエネルギーアドバイザーの役割の認知も広まり、社会的な評価と共感を得られるようになっています。
2022年に、スマホアプリとしては日本初である住宅のUA値・冷暖房負荷計算・光熱費計算アプリ「かんたん燃費」 を開発しました。詳細はページの後半でご紹介いたします。
②断熱等級6・7(戸建住宅) 告示公布(令和4年10月1日施行)
・断熱等級6・7の概略
近年の気候変動がもたらす被害が相次ぐなか、令和2年に菅元総理が行った所信表明演説「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すこと」とした俗にいう脱炭素宣言をもとに、当時の河野大臣主催のタスクフォースにて、国交省・経産省・環境省×有識者によるあり方検討会で、より高性能な断熱等級の検討が始まりました。そして、2022年10月に新等級(断熱等級7・6)が追加され、長期優良住宅認定の基準の引き上げが行われました。
それに伴い、大手ハウスメーカー各社はZEH基準に相当する断熱等級5を標準仕様とする傾向にあります。
また、2023年10月現在、上位等級である断熱等級6.・7に対応するメニューの発表が相次いでおり、今後、断熱等級による価格競争の激化が進むことが予想されます。
・断熱等級6・7の仕様の解説
新設された上位等級について少し解説してみましょう。
下記の表は、国土交通省が発表している戸建て住宅の断熱仕様の例です。
日本では、北は北海道、南は沖縄まで異なる気象条件にあるため、1~8地域区分に分けられた目標が設定されています。
壁の断熱に注目をすると、断熱等級5までは1~7地域で高性能グラスウール16Kの充填断熱材105㎜でクリアする仕様となっていますが、サッシは5~7地域でアルミ樹脂複合サッシとなっているのに対し、1~4地域では樹脂サッシのトリプル仕様となっています。なお、8地域は温暖地となるため、断熱の仕様が省略されています。
断熱等級6になると、5~7地域では外張り断熱として押出法ポリスチレンフォーム25㎜が追加され、サッシは樹脂複合サッシとなっていますが、1~4地域では外側に高性能グラスウール16K100㎜が追加され、サッシは樹脂サッシのトリプル仕様となっています。
断熱等級7では1~7地域まで樹脂サッシのトリプル仕様ですが、壁の断熱は1~3地域ではフェノールフォーム100㎜+高性能グラスウール16K 210㎜と断熱だけで300㎜を超える仕様となっています。
以上が断熱等級の仕様の概略ですが、建物の面積や開口部の面積によっては、断熱やサッシの仕様を調整することで費用対コストの良い躯体にすることも可能です。ご自分で計算できる方は、ぜひ検討してみてください。
特に、サッシは日射取得による冷暖房エネルギーの増減や体感温度に直結するので、注意が必要です。
ただ、断熱等級ばかりが注目されている反面、気密性能を表記してい
るメーカーは少ないです。断熱性能が表記上高くなっても、現場の施工上の気密性能が担保されない場合、断熱性能が発揮できないばかりか、壁内結露を発生させる恐れもあるため、現場での施工精度が問われることは間違いありません。
【後編】
③2024年4月から「建築物の省エネ性能表示制度」開始が決定
④「2024年に向けたトレンド(取り組むべきこと)」
・省エネ性能表示制度に対応できる体制作り
・自社の建築コストと住宅性能、ランニングコストを把握すること
・勉強会に参加し、断熱材やサッシ、換気システムなどの「目利き」になる
・断熱等級6以上に対応した自社の仕様、施工マニュアル、提案ボードなどの作成
筆者:イーシステム株式会社 代表 横山 直紀
エネルギーアドバイザー
スマホアプリとしては日本初である住宅のUA値・冷暖房負荷計算・光熱費計算アプリ「かんたん燃費」 の開発者。
計算と体感を大切にしながら、省エネで快適な温熱環境の提案活動を続けている。
【受章実績】
2015年 第1回日本エコハウス大賞大賞「もるくす建築社・開放する北国の家」/Q値・燃費計算
2016年 第2回日本エコハウス大賞協賛賞「菊池佳晴建築設計事務所・国見ヶ丘の家」/性能計算・設備設計施工
2017年PHJエコハウスアワード 地域トップランナー基準部門 優秀賞「菊池佳晴建築設計事務所・国見ヶ丘の家」
2017年 第3回日本エコハウス大賞特別賞「オオツカヨウ建築設計・ヒラヤノイエ」/性能計算・設備設計施工
2017年 第18回 JIA環境建築賞 最優秀賞住宅建築部門「もるくす建築社・佐戸の家」/性能計算・設備設計
2019年第5回日本エコハウス大賞 3部門で入賞
大賞「サンハウス・水戸の家」/設備設計・施工
協賛賞「吉田建築設計・計画事務所・南大通の住宅」/設備設計・施工
奨励賞「イーシステム・釜石の家」
◇一般ユーザーが手軽に住宅性能や光熱費を計算できるスマートフォンアプリ
「かんたん燃費」
・一般ユーザーでも簡単に住宅性能と光熱費の関係を勉強できる
・一般ユーザーとビルダー、建材メーカーが同じ「物差し」で性能とコストを共有できる
・書籍1冊と同程度の価格
また、一般ユーザーに手の届く価格で、たくさんの人に使ってほしいという思いから、現在では誰でも持っているスマートフォンでのアプリを開発。販売が開始された「かんたん燃費」は高評価を頂いており、多数の断熱材・サッシメーカーの協力もあり、シュタイコ木繊維断熱材をはじめ実名で表記された商品を比較検討しながら、住宅性能と燃費について学ぶことができます。もちろん、気密や断熱について勉強中のプロユーザーにとっても、非常に使いやすい計算アプリになっています。
これからさまざまな機能を追加する予定ですので、新築、増改築を検討する際は、ぜひ体験してみてください。