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第26回エコバウ建築ツアー2023 〜持続可能な省エネ・木造建築と自然と調和する建築の旅〜<前編>

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    環境問題

    エコバウ建築ツアー

昨年行われた第26回エコバウ建築ツアー2023。

コロナ禍以降 4年振りにツアーを再開できたことを多く皆様から喜んでいただき、ツアーの案内開始早々に定員を迎えるなど改めて皆様の関心の高さがうかがい知る事ができました。ドイツ・オーストリア・スイスの3カ国を巡り、欧州の最新の建築を肌で感じ、著名建築家から直接お話しを聞ける貴重な旅。今回、本ツアーにご参加いただいたアーキテクト工房Pure 代表取締役 高岡さまから寄稿いただいた内容を元にご報告いたします。

 

第27回エコバウ建築ツアー2024計画中!

4月下旬、情報公開・参加応募受付開始(予定)

 

日程 行き先 都市
10月29日(日) 出国

到着後 ウェルカムパーティー

Munich市
10月30日(月) ◆木繊維断熱材STEICO本社

◆プリンツ・オイゲンパーク

◆STEICO zell 施工現場

Feldkirchen村

Munich市

Dornbirn市

10月31日(火) ◆ホルガー・ケーニッヒ氏講演

◆建築家 ヘルマン・カウフマン氏建築案内

・修道院施設の改修

・電力会社ビルIZM

・社会福祉的な木造集合住宅

Munich市

 

St.Gerold村

Vandans村

Götzis村

11月1日(水) ◆美しいZEH住宅

◆10世帯のZEB分譲住宅ソーラーパーク+

Eschenz村

Wetzikon市

11月2日(木) ◆スイス漆喰HAGA本社

◆スイス漆喰、土壁利用の住宅、店舗見学

Rupperswil市

Bremgarten村

11月3日(金) ◆木造会社 シェア・ホルツバウ

◆ZEB製材所

◆5階建木造集合住宅「シェア・ルーム」

Altbüron村

Malters村

 

11月4日(土) ◆持続可能な住宅地エルレンマット・オスト地区

◆シュタイナー総本山・ゲーテアヌム訪問

Basel市

Dornach村

11月5日(日) 帰国  

 

 

10月30日(1日目)

◆木繊維断熱材STEICO本社

 

初日の視察先はドイツで木繊維断熱材を製造しているメーカー STEICOの本社視察であった。説明や案内をして頂くのはSTEICOアカデミー・チーフのフロリーナ・ツァンケル氏、マイスターの資格を取得されておりマイスターの制服で私たちを迎えてくれた。木繊維断熱材を製造している会社は世界で3社しかないなくSTEICOはヨーロッパの4カ国で断熱材を製造している。
STEICO本社は木造4階建て、木繊維断熱材の使用や、建物の防火構造について説明を受ける。日本とは法律が違いうため、外壁の延焼ラインを気にする必要が無く窓は全て木製トリプルアルミクラッドサッシが使用されている。又、地震よる耐震性も考える必要がないため耐風圧の計算だけで良いとの事、うらやましい限りである。断熱性能面ではヒートブリッジを小さくするためにH型の間柱を使用することで木材の量を1/3に抑え断熱性能を高めているなど高性能な建物にする為の説明を受ける。断熱材は付加断熱共に木繊維断熱材と説明をしているスライドの中に見慣れたマークがあった。
認定はとっていないが建物自体は‟PassiveHouse”基準である。120名の社員が快適に働いており当然のように建物自体は、エネルギー削減や持続可能を実現する建物である。
また、STEICO社の使命は「森の中で長期的に長く」をテーマに‟1本の木を切ったら2本植える”と持続可能で環境の事を常に考え実行している。

 

 

◆プリンツ・オイゲンパーク(木造建築を使用した環境モデル集落)

 

建築家ウルフ・レスラー氏案内
ミュンヘン東部にある旧プリンツ・オイゲン兵舎で、ミュンヘン市が都市開発のために国から買い取った軍事区域のうちの 1 つであり、都市計画で取り組まなければならない3つの柱がある。

・社会的混在(あらゆる所得層世帯を混在させ、社会的孤立を防ぎ社会を安定させる)
・街区の発展
・エコロジカルな建築

木造建築を使用した環境モデル集落として建設しており、敷地の中にあった古い木を残し周辺環境にも配慮されている。最大7階建ての建物はハイブリット木造建築から純木造建築まで様々な工法を用い木材をふんだんに使った建物が建ち並ぶ。ウルフ・レスラー氏が案内の中で言った言葉がとても印象的で「木造建築は‟成長する資源”である。」との説明を受けた。この地域では、住居空間1㎡に対して何kgの木材が使用されているかによって補助金の金額が3段階に分かれており最低の割合が50㎏/㎡(コンクリートと木材のハイブリット工法)で補助金1,350万€、120kg/㎡(1階と階段コンクリート、他木造)で補助金 1,850万€、150kg/㎡+木外壁60 kg/㎡(全て木材)だと2,800万€の補助金が出る。集落の中には最大 280㎏/㎡の木材が使用された建物もある。そして、ここで建築されている建物はミュンヘン州都の最低性能基準からPassiveHouse基準まで建っている。室内は見学できなかったが外壁はどの建物も板張りで施工されている。当たり前だが日本よく使用されるサイディングボードは見当たらず、‟成長する資源”の活用を私たちも見習わなければならない。

 

◆シュタイコゼル吹込み現場

 

今回のツアーで唯一の工事現場の視察である。1本の木材より12㎥の断熱材が製造できるなどの説明を受け、壁厚240㎜、屋根厚280㎜のシュタイコゼル施工現場へ。1時間に10㎥がブローイングできるマシンを使用し、40〜50坪の住宅だと作業員2名で1日から1.5日あれば完成するという、年間3000棟のブローイング工事を行っている施工会社の施工を見せて頂く。外壁付加断熱にはSTEICO Duo Dry 充填断熱はSTEICO Zellで気密は室内のOSB合板でとっている。OSB合板にブローイングする穴が開いておりホースを差し込んで上下にかなりの圧力で吹き込んでいく。日本の施工だと吹込み用不織布を張り、ゼル施工後に再度気密シートを張る、施工の2度手間は省けるが、どのような状態で吹き込みされているか目視できないことと、施工を忘れると充填断熱がされていない箇所が出来る為、熱橋になってしまうので要注意だなと感じる。壁の厚みも違うが、几帳面な日本人と大らかな欧州人の違いだろうか。

 

10月31日(2日目)

◆ホルガー・ケーニッヒ氏講演

 

ツアー2日目は『欧州及びドイツにおいての建築環境政策の最新動向』というタイトルでホルガー・ケーニッヒ氏による講演で始まった。セミナーでは、未来に通じる建築として環境と健康は分けて考えないといけないなど、健康は利己主義でも良いが環境はグローバルに大きな空間(地球全体)で考えなくてはならない。また、建設によるエネルギー消費の削減としては省エネルギーな建物はマストである。
環境 ⇒ 再生・原料・成長する材料(サーキュラーエコノミー)
健康 ⇒ 快適性・湿度・音・臭い(五感)

Von der Wiege bis zur Bahre:揺り籠から墓場まで
「この世に生まれてから去るまで、社会全体で面倒をみましょう」という社会保障制度
Von der Herstellung bis zur Beseitigung:生産から廃棄まで
エコ収支の計算を行い建材製品の循環が大事で木造建築は炭素の中間貯蔵庫であると言われるように欧州では特に木材利用は‟成長する資源”としてライフサイクルを考慮した建物計画を大切にしている。

また、ケーニッヒ氏は最後に未来に通じる建築とは『次の世代への責任を引き受ける事』と締め括る。私も参画しているグループ「House de Oreganic」の目的も、建築を通して『子供たちに豊かな未来を残す。』であり、まさに同じ志だと共感した。

 

 

◆ヘルマン・カウフマン氏の建築視察

 

場所をドイツからオーストリアへ移し、建築家ヘルマン・カウフマン氏の案内で3箇所の物件を巡る。
・ザンクトゲロルド村の歴史的修道院施設の改修現場
・ヴァンダンス村の電力会社ビルIZM水力発電
・ゲツィス村の社会福祉的な木造集合住宅
ザンクトゲロルド村の歴史的修道院施設に向かう途中2010年にパッシブハウス・ジャパン(PHJ)のツアーで視察した建物が見えた。私がPHJ賛助会員になって最初に参加したツアーだったこともあり今でも鮮明に覚えている。小さな村役場の施設で同じ建物の中に幼稚園も入っており、室内は床・壁・天井全てモミの木かトウヒが使われとても綺麗に仕上がっていたのを思い出す。

2010年のPHJツアー

2023年

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ザンクトゲロルド村の歴史的修道院施設の改修現場

 

まず最初に案内されたのが修道院施設の改修現場である。陽気な牧師がパイプオルガンの演奏で私たちを出迎えてくれた。設計を建築家ヘルマン・カウフマン氏に依頼した理由が‟普通でない建築家だった”から、辺境の地に1000年続く修道院で布教を続けていくこともまた普通では為し得ないことである。ここで使われている材料は粘土と木(トネリコ・モミの木)で出来ていると説明を受け、案内して頂いた墓地は版築の壁でとても素晴らしいものだ。次に案内されたのは1000年前の納屋だった場所を宿泊施設に改修した建物だ。1000年前の木材の組み合わせで仕上げられておりとても美しく纏められている。施設の改修では‟解体の事を考えて接着していない”とのことで、断熱材も含めて100%自然素材でありライフサイクル(LCA)を考えた素晴らしい建築である。

 

 

 

 

 

 

 

◆ヴァンダンス村の電力会社ビルIZM水力発電

 

会社は休業日だったが日本から視察に来ると言う事でわざわざ秘書の方が開けてくださった。湖畔に突き出る様に建っている建物は1階コンクリート、2〜4階は木造の混構造。工場でプレハブ化されたパネルを現地で組立し、6週間で建て方が完成する。水力発電会社の事務所で使っているエネルギーは当然100%自然エネルギーで余った排熱は地域暖房として供給している。従業員は300人で、へき地でも働きに来てもらう為に高級感のある建物と快適な空間を目指し、柱はトウヒ・仕上げにナラ材を使用する。カウフマン氏の説明の中で‟木は人に近い建材”と言う言葉がとても印象的だった。パッシブハウス・ジャパンのメンバーですと紹介して頂くと‟この建物もPassiveHouseだよ”と答えてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

11月1日(3日目)

◆エシェンツ村 戸建てミネルギー住宅

 

ツアー3日目はスイスに入り、建築家 トーマス・メッツラー氏の案内による戸建て住宅の視察で、スイスの認証制度ミネルギー基準の建築である。ミネルギー制度の事はあまり知らないので調べてみると1998年に基準化された省エネ住宅が「ミネルギー」、2002年に基準化されたのは「ミネルギーP」でパッシブハウスの性能、2007年に基準化された「ミネルギーP・ECO」で、パッシブハウス性能でさらにエコジカルな建材を使用する。パッシブハウスは外皮性能を基準に考えているがミネルギー基準は給湯、暖房にかかるエネルギーを出来るだけ太陽熱やバイオマスなど自然エネルギーを使い一次エネルギーに対して厳しい基準を設けている。視察先の地域での持ち家は40%で賃貸住宅が60%の比率であり、戸建ての価格は平均2億円で富裕層が対象となる。建物は2階リビングでシンプルな造り、キッチンにはレンジフードはなくIHと一体型で室内循環型の換気となっており外気の影響を受けないので温熱的にはとても優位に働く。地下室には地中熱ポンプ・ヒートポンプ・熱交換換気などの設備が配置されていた。

 

 

◆ヴィツィコン市ミネルギーP・ ECOプラスエネルギーハウス

 

2つ目の視察先は建築家フランツ・シュニーダー氏によるミネルギーP・ECOの分譲住宅。15名の設計士がいるアーレント設計事務所では25年前よりエネルギー効率が高く環境にやさしい住宅建築の専門家として新築、改築、増築などを手掛けている。視察させて頂いた建物は外壁自体が太陽光パネルとなる太陽光ファサードと木の組み合わせ。太陽光パネルは屋根だけではなく一日中発電できるようにベランダの腰壁にも設置されており、地下室には蓄電池を設置しプラスエネルギーな建物となっている。又、電気自動車もカーシェアリングを導入し住人たちが共有している。建物の省エネ性能はミネルギーP・ECOでパッシブハウスの断熱性能となっており室内の粘土壁には冷水・温水を通して輻射による冷暖房を行なっている。

 

 

>>後編へ続く

 


参加者ボイス

エコバウツアーの良さは、参加をしてみて感じることが多いのですが、スイスやドイツ国民のエコロジーやエネルギーについての考え方から価値観、職業観などは、聞いて、観て、そしてやはり肌で触れるものや視覚で感じるもの、又農村地帯の風景や旧市街地の歴史的な建物からは地域特有の風土や固有の文化も感じることができました。
やはり私の目的の一つは、建築視察と木造会社の見学であり、木造ビルの先進国のスイス、オーストリアでの木造ビルの見学や、それらを担う設計事務所や地元の製材所や木造会社の見学などをさせてもらい、地域で廻る経済(サーキュラーエコノミー)を実際に理解することが出来ました。
ツアーの楽しみは多いのですが、見慣れぬ風景や、街並散策をしたり、また郷土色豊かな食事と本場のビールやワインをいただくのもツアーの楽しみの一つです。そしてそれらを共に過ごす仲間たちが、一堂に集まり、情報交換をしたりとすぐに打ち解けて帰国する時には、「同じ釜の飯」の同志となって、再会を誓ったりと新しい友人たちが増え続けています。
エコバウツアーに3度続けて参加していますが、次は社内の若い人達に参加を促しています。
過去のエコバウツアーで印象に残っているのが、エキシビジョンツアーと自由時間の街歩きです。スイスの古民家村の集落(バレンベルクの野外博物館)が特に印象深いのですが、スイス各地の保管や維持が難しい古民家を100棟ほど集めて建っており、古民家の種類も豊富で、藁葺き屋根の家、木造建築、フレームハウス、石造り家屋や山小屋など、昔ながらの農村風景が再現されており、村の製材所は、水車を利用した動力の帯鋸で製材をしていたりと、昔の風景が残されて興味深く見学しました。またベルンの旧市街地を自由時間にそれぞれで散策し、ベルン大聖堂に上り世界遺産のベルンの街並みを眼下に観て目に焼き付けたこと。コルビジェセンター(センタール・コルビジェ)の見学を有志で見学したこと。坂茂さんの建設中のスウォッチとオメガのビルの見学等々。
それらツアーの楽しい思い出は、その場限りではなく一緒に参加したメンバーの人たちとの帰国後の交流も含めて、刺激を受け続けていることにあります。
最後にこのツアーを企画していただいているイケダコーポレーションの皆様、ツアー先での快くお迎えしてくださる皆様、そしてそれらをコーディネートしてくださっているツアーコンダクターの滝川薫さん。彼女の豊富な知識と経験によるものがこのツアーの魅力でもあります。このツアーでの得ることの多さに感謝しています。
ツアー後には、友人たちを囲んでエコバウツアーの報告会を開催しています。                             

株式会社竹内工務店 代表取締役 竹内明さま

 

参加目的を達成することができただけでなく、貴重な現地での体験を通じ大きな財産となりました。また同様の価値観を持った参加者との意見交換、情報交換ができネットワークが広がりました。イケダコーポレーションのスタッフ様、添乗員様、通訳の滝川様にとても感謝しています。
意見として宿泊先については、可能であれば歴史的建物、又は旧市街の立地(少ない時間で街歩きが出来るよう)、ツアーの内容に乗じた宿泊先(今回だと修道院)であればなお良いかと思います。参加者が多く名前を覚えるのが大変だったので、名札や顔写真入りの参加リストなどがあればよいかなと思いました。                             

株式会社カタリナハウス 代表取締役 成松弘之助さま

次回ツアーより名札をご用意いたします!

 

環境に対する考え方の日本との違いを知りました。暖かいだけでなく、建築に使う素材がどんな過程で作られるかまで考えていました。自国が持っている資源の価値を国民がよくわかっていて、そのうえで上手く使いこなしているところはとても参考になって、日本でも真似ができればと思いました。
通訳の滝川さんは、通訳がわかりやすいだけでなく、バスの中でのお話もとても勉強になりました。加藤さんは朝の散歩にご一緒させていただき、ヨーロッパの歴史などたくさん教えていただきました。ありがとうございました。
やっぱり現地でないと感じられないことがまだまだあるなと感じました。                             

株式会社野澤工務店 取締役 野澤万里さま

滝川さんの通訳は本当に感激しました。
初めて通訳といった仕事に触れましたがすごい仕事だなぁと思いました。知識の多さにも驚きました。加藤さんは優しく色々な事を教えてくださいました。ありがとうございました。

株式会社野澤工務店 野澤星羽さま

 

 


 

寄稿/アーキテクト工房Pure 代表取締役 高岡文紀さま

愛媛県松山市を拠点に「世界基準のパッシブハウス5つ星の快適を日常に」という強いメッセージで、デザイン×高性能×自然素材、3拍子そろった家づくりを提案する。

一般社団法人パッシブハウスジャパン理事を務め、パッシブハウス認定物件も数多く手掛けている。また、住まうオーガニックを提案する『House de organic』を主宰するなど、高性能な家づくりの普及活動にも努めており、卓越した工務店経営手法は高性能住宅ビルダーの模範的存在でもある。

 

 

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