昨年行われた、イケダコーポレーション主催第27回エコバウ建築ツアー2024。

ドイツ・オーストリア・スイスの3カ国を巡り、欧州の最新の建築を肌で感じ、著名建築家から直接お話しを聞ける貴重な旅。今回、本ツアーにご参加いただいた株式会社彩 代表取締役大坪さまから寄稿いただいた内容を元にご報告いたします。

10月28日（1日目）

◆木繊維断熱材STEICO本社

欧州視察ツアー初日、木質系断熱材メーカー最大手であるシュタイコ社本社を訪問いたしました。 当社においても標準仕様として採用しているシュタイコ社の断熱材について、改めてディレクターのクラウス氏より詳細なレクチャーを受けることができ、大変貴重な経験となりました。

シュタイコ社は、欧州3 か国に加えフランスにも製造拠点を持ち、原材料の調達を安定的に確保している点が印象的で、断熱材だけでなく、構造パネル建材も製造しており、脱炭素社会の実現に向けて、木質素材の有効活用に力を入れています。「1 本の原木を最大限に活用するサステナブルな生産体制」を確立しており、構造材に適した部分を優先的に製材し、残りの部分はパネル材や断熱材の原料として利用することで、資源の無駄遣いを防いでいます。また、近年欧州で深刻化する松くい虫被害に対しては、比較的害虫被害の影響を受けにくい若い木でもパネル材や断熱材の原料として利用できるため、欧州圏内の林業にも大きく貢献していました。

クラウス氏からドイツにおける断熱の歴史についてもお話を伺い、現在日本おける新築住宅の平均的な断熱性能が、ドイツの1980年代後半のレベルに相当するという点に驚きました。また木質系断熱材の最大の強みである蓄熱性や熱拡散性といった、暑さに対する性能は、特に日本の住宅においても見直すべき点であると考えられます。 当社が初めてシュタイコ社の断熱材を採用した建物では、他の断熱材と比較して、夏場の室温が大幅に低下するという効果を実感しました。クラウス氏の説明によると、これは「フェーズシフト」と呼ばれる現象によるもので、蓄熱性と熱拡散性の高い断熱材が、夏場の太陽熱を蓄え、室温の上昇を抑制する効果があると、分かりやすい解説は参考になりました。

ドイツでは、マイスター制度に基づき、高度な専門知識と技術を持つマイスターが施工を担当します。特にブローイング工法においては、OSB表面への施工が主流であり、充填状況を目視で確認することが難しいため、高い施工技術が求められます。一方、日本ではシート表面への施工が主流であり、目視による品質管理が容易に行える点が特徴で、シュタイコは認定を受けた施工店による責任施工を徹底しており、日本の住宅においても安心できる施工体制が確立されています。

◆ミュンヘン近郊のシュタイコ施工現場視察

シュタイコ本社レクチャー後、ミュンヘン近郊のシュタイコ施工現場を視察いたしました。視察前日に、施工現場がシュタイコの施工工程に入っていないとの報告があり、断熱工事前の状況を視察することとなりました。 現場に到着してまず驚いたのは、戸建て現場に固定式のクレーンが設置されていたことです。 欧州では戸建て住宅でも大規模なパネルの荷下ろしや組付け、大量の断熱材などの資材搬入のために、固定式のクレーンを設置するのが一般的のようでした。

現場の状況は、断熱工事に向けた木工事が進行中、屋内のOSB ボードを張り終えたばかりで、構造は日本の在来工法とは異なり、地下室のある1 階はレンガ構造、2 階部分が木造パネル工法で、耐震構造の規制は日本よりも緩いように見受けられました。 ドイツでは大工職人が人気のある職業とのことですが、それでも職人不足のため、現場の効率化を図りパネル工法が主流となっているようです。 断熱工事前ではありましたが、基礎外断熱や屋内側の気密に関する下準備などから、高断熱高気密な建物であることが確認できました。

視察の途中、現場の近くに増改築中の現場があるとの情報を得て、急遽そちらへ移動しました。 現場は、平屋の農業用倉庫を2 階に居室を増築し改修中で、シュタイコduo dry 負荷断熱工事を終え、間もなく屋内側からシュタイコゼルのブローイング施工が行われるとのことでしたが、徒歩圏内でこのレベルの断熱工事を施す建物が点在していることから、ドイツでは高断熱工事が一 般的であることが改めて認識でき、日本の住宅との断熱性能の違いは歴然であり、今回の視察を通じて、日本の住宅の高断熱化の遅れを痛感いたしました。

まずは1日目の内容をお届けいたしました。

以降も随時公開いたしますので今しばらくお待ちください。

【2日目】>>

寄稿／株式会社彩 代表取締役 大坪宏記さま

福岡県みやま市を拠点に、「自然素材の質感や特性を活かし、季節を感じ、日々のより上質な暮らしを大事に考えた住宅」を提案する。パッシブ的思考をもとに自然の気候エネルギーをうまく活用し、コントロールできるよう計画的に「間取り」や「窓の配置」、「屋根の形」を考えることで、夏は涼しく冬は暖かい、空調依存の低い光熱費を最小限に抑えることが可能な真の省エネ住宅を目指す。