【第27回エコバウ建築ツアー2024】 旅のレポートDay5
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コラム
環境問題
エコバウ建築ツアー
昨年行われた、イケダコーポレーション主催第27回エコバウ建築ツアー2024。
本ツアーにご参加いただいた株式会社彩 代表取締役大坪さまから寄稿いただいた内容を元に5日目の様子をご報告いたします。
日程 | 行き先 | 都市 |
10月27日(日) | 出国
到着後 ウェルカムパーティー |
ミュンヘン |
10月28日(月) | ◆木繊維断熱材STEICO本社
・近郊のプロジェクト・現場視察 |
ミュンヘン |
10月29日(火) | ◆カウフマン木造木工社
・ビオホテルschwanenで100%オーガニック・グルメ ◆若手建築家インアウアー・マット設計事務所 ◆材木屋の倉庫建築 ◆ローコスト住宅 ベネディクト・カウフマン邸 |
フォアアールベルク州
ザンクトゲロルド村近郊 |
10月30日(水) | ◆ローテク木造建築・サーレッツ農業学校
◆K118サーキュラー建築 ◆木造ハイブリッド集合住宅・H1 |
サーレッツ村
ヴィンタトゥール市 |
10月31日(木) | ◆木造ZEB・サーキュラー建築Haus des Holzes
◆大手木造会社・エルネ社 |
ルツェルン
バーゼル近郊 |
11月1日(金) | ◆HAGA社・事例訪問
◆木造5階建てZEB・エコオフィスHortus |
バーゼル近郊 |
11月2日(土) | ◆古民家改修事例・ヴァイヤーグート
◆協同組合式集合住宅・ヴァルムベヒリ |
ベルン |
11月3日(日) | 帰国 |
11月1日(5日目)
◆HAGA社・事例訪問
当社も標準仕様の「スイス漆喰」製造メーカーであるHAGA社の施工現場を視察する機会を得ました。HAGA 社のCEOであるトーマス・ビューラー氏と、施工指導を担当する社員の方から詳細な説明を受けました。最初の視察先は、1302年に初めて歴史に登場し、1725年に現在の形に改築された歴史ある教会の屋内総改修工事現場です。室内に入ると、当社の工事現場と同様に漆喰の香りが漂い、新しく改装された真っ白な漆喰壁が非常に美しい空間が広がっていました。しかし、この教会の漆喰壁の下地は、昨今のボード下地ではなく石灰石という歴史的建造のため、湿気の問題や古来からの施工方法に近い内容での施工が求められていたことから、通常ボード下地に行う約5 倍もの厚みのミネラル下地材が施され、その上に上塗りの漆喰も5倍程の厚みで塗られていました。歴史的な建物を維持していく上で、このような丁寧な施工が不可欠であることを改めて認識しました。
次に、施工指導を行う社員の方の自宅と、隣接する民泊とカフェ施設を視察しました。これらの建物も、HAGA社の漆喰壁や粘土壁材を内外装に使用した、1500 年代に建築された歴史ある建物です。日本では考えられないほど古い建物にも関わらず、断熱の改修や、漆喰や粘土といった劣化に強い材料を用いた内装により、快適な住空間が実現されています。
最後に訪れたのは、築800年の建物を内装に粘土材をフル活用してフルリノベーションしている現場で、特に「古い建物を大切にし住み続ける」と いう考え方は、非常に感銘を受けました。我が国日本では、平均的に築40年程度で建て替えてしまうことが多く、資源の無駄遣いや空き家問題の深刻化といった多くの課題を抱えています。建築様式や気候風土の違いから建物の寿命は国によって異なりますが、スイスの建物を長く大切に使うという取り組みは、私たち日本人が見習うべき点が多いと感じました。
◆木造5階建てZEB・エコオフィスHortus
今回視察したZEB 木造ハイブリッド建築は、その外観からして太陽光パネルが設置 された庇が目を引き、高性能なZEB 建築であることが見て取れました。 開発に至る経緯やコンセプトについて、セン不動産開発会社のダービット・ヴァルター氏からレクチャーを受けましたが、「森でつなげる」という一帯の開発コンセプトは、環境大国スイスらしいビジョンだと感じ、この建物の最大の特徴は、木造建築であることと同時に、製造から廃棄に至るまでの排出エネルギーを徹底的に削減しようとする姿勢です。
特に、階層ごとの床にコンクリートではなく、現場で掘削された土を利用した版築を採用したことは革新的で、版築用の仮設工場まで設置するなど、環境負荷低減に対する徹底した取り組みが伺えます。また、庇や屋上に設置された太陽光発電 により、建設時に削減できなかった排出エネルギーを30年で回収するという計画は、環境負荷対策への高い意識の表れと言えるでしょう。
建物内部を案内していただいた際、ロの字型の形状と最上階まで続く屋外吹き抜けが印象的でした。この吹き抜けを緑化する計画とのことですが、天井面をむき出しにした版築スラブが天井材を兼ねているという点は、デザイン性と機能性を両立させた素晴らしいアイデアです。木製の梁と梁の間にある版築との組み合わせは、画期的な効果を生み出しており、室内の壁は下地を含め、ほぼ全てが粘土材で、床はオーク材のラフソー仕上げのフローリング。外壁のほとんどが板壁という、この規模の建物で環境のために内外装の素材にここまでこだわる建物は、日本ではまず見られないレベルと言えるでしょう。暖房には温水によるラジエーター暖房が採用され、断熱材も木質系断熱材が壁厚から見てかなり厚く設置されていました。外部サッシはトリプルガラスのハイスペックサッシを使用するなど、環境のために費用を惜しまない姿勢は、スイスならではと言えるかもしれません。しかし、将来的には日本においても建築に関する環境問題は避けて通れない時代が来るでしょう。今回の見学を通して、環境に配慮した建築の重要性を改めて認識するとともに、日本の建築業界にもこのような革新的な取り組みが広がってほしいものです。
<<【4日目】
寄稿/株式会社彩 代表取締役 大坪宏記さま
福岡県みやま市を拠点に、「自然素材の質感や特性を活かし、季節を感じ、日々のより上質な暮らしを大事に考えた住宅」を提案する。パッシブ的思考をもとに自然の気候エネルギーをうまく活用し、コントロールできるよう計画的に「間取り」や「窓の配置」、「屋根の形」を考えることで、夏は涼しく冬は暖かい、空調依存の低い光熱費を最小限に抑えることが可能な真の省エネ住宅を目指す。