【第27回エコバウ建築ツアー2024】 旅のレポートDay6
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コラム
環境問題
エコバウ建築ツアー
昨年行われた、イケダコーポレーション主催第27回エコバウ建築ツアー2024。
本ツアーにご参加いただいた株式会社彩 代表取締役大坪さまから寄稿いただいた内容を元に6日目(最終日)の様子をご報告いたします。
日程 | 行き先 | 都市 |
10月27日(日) | 出国
到着後 ウェルカムパーティー |
ミュンヘン |
10月28日(月) | ◆木繊維断熱材STEICO本社
・近郊のプロジェクト・現場視察 |
ミュンヘン |
10月29日(火) | ◆カウフマン木造木工社
・ビオホテルschwanenで100%オーガニック・グルメ ◆若手建築家インアウアー・マット設計事務所 ◆材木屋の倉庫建築 ◆ローコスト住宅 ベネディクト・カウフマン邸 |
フォアアールベルク州
ザンクトゲロルド村近郊 |
10月30日(水) | ◆ローテク木造建築・サーレッツ農業学校
◆K118サーキュラー建築 ◆木造ハイブリッド集合住宅・H1 |
サーレッツ村
ヴィンタトゥール市 |
10月31日(木) | ◆木造ZEB・サーキュラー建築Haus des Holzes
◆大手木造会社・エルネ社 |
ルツェルン
バーゼル近郊 |
11月1日(金) | ◆HAGA社・事例訪問
◆木造5階建てZEB・エコオフィスHortus |
バーゼル近郊 |
11月2日(土) | ◆古民家改修事例・ヴァイヤーグート
◆協同組合式集合住宅・ヴァルムベヒリ |
ベルン |
11月3日(日) | 帰国 |
11月2日(6日目)
◆文化財指定の古民家をZEB 改修 ヴァイヤーグード視察
ワブーン村ののどかな農村地区に佇む、文化財指定の元農業用倉庫をフルリノベーションした8世帯のZEB集合住宅を見学させていただき、建築に詳しい住人代表の方による、改修工事や住人コミュニティに関するレクチャーは、大変興味深く貴重な体験となりました。今回の建物は、文化財指定ということもあり、外観や構造的な制限が非常に多かったそうです。しかし、そのような条件下でも理想的な暮らしを実現できる建物へと見事に生まれ変わっており、 建物全体のUa値を0.15という高い水準まで引き上げ、地中熱ヒートポンプによる温水床暖房を採用することで、室内の快適性を高めています。見学当日は気温が低かったにも関わらず、室内は暖かく断熱性能の高さを実感でき、内装にはHAGA社の粘土壁や無垢材がふんだんに使用されており、居心地のよい空間が広がっていました。また石灰石で覆われた半地下の納屋部分を住人共有のランドリールームに改修したり、大きな小屋裏をフリースペースとして活用したりするなど、住人同士の交流を促進する工夫がなされています。
太陽光発電パネルはブラウン色のパネルが設置されており、一見板金屋根のように見え景観を損なっておらず、この太陽光メーカーのパネルは「色が選べる」という画期的な商品であったことから、景観的規制をクリアでき、さらに屋根の形状に合わせたパネルの割り付けが可能とのことです。今回4軒のお宅を拝見させていただきましたが、古き良き部分を残したお宅や、粘土壁や木材など、質の高い内装材を使って新しい内装に改装されたお宅など、各々の好みに合わせた室内に改装されており、暮らしの豊かさを感じることができました。見学通じて、ZEB 集合住宅が単なる省エネ住宅にとどまらず、住人同士のコミュニティを育み、豊かな暮らしを実現するための素晴らしい選択肢の一つであることと、文化財を再生し、現代の技術と融合させたことは、革新的プロジェクトでもあります。
◆チョコレート工場改修 木造増築した集合住宅視察
2021年に竣工したベルン市ヴァルムベヒリは、1965年築の3階建てチョコレート工場を木造で5 階建てに増築し、60 世帯の集合住宅へと再生させた画期的なプロジェクトです。現地では建設協同組合職員のソニア氏より、建物の詳細な説明を受けました。日本の場合、築59年の倉庫であれば解体という選択肢が真っ先に浮かびますが、スイスでは一般住宅に限らず、先日視察したサーキュラー建築の事例同様に古い建築物を有効活用するという考え方が根強いようです。
建物内に入ると、広々としたエントランスホールが目に飛び込んできます。このホールを中心に、ショップ、多目的ホール、ゲストルーム、DIY 工房、手作り雑貨の販売スペ ースなどが配置されており、住人同士の交流を促進する設計となって、特に印象的だったのは、8人で共同生活を送るシェアハウスです。キッチンは共有ですが、トイレやバスルームは個室となっておりプライバシーも確保されています。またシェアハウス、単独世帯それぞれの住戸は、天井高の違いを活かし、シェアハウスエリアには天井の高い階を使い中二階化、単独世帯エリアには天井の低い階を割り当てるなど、空間の有効利用が面白く、最大の特徴は、共有空間を広く取っている点です。居住空間を狭くすることで、共用スペースを充実させ、住人皆が快適に過ごせる環境を実現しており、フロアーごとのランドリールームや屋上には緑化された区画やキッチン付きのパーティールームがあります。夏場の日差し対策には太陽光パネルが活用される など、コミュニティと同時にサステナビリティにも配慮されて、単なる集合住宅にとどまらず多様なイベントスペースなど、住人の暮らしを豊か にする様々な要素が盛り込まれています。
今回の視察を通して、スイスにおける古い建物の有効活用と、新しい形のコミュニティ創造の可能性を感じました。ヴァルムベヒリは、今後の住宅設計に大きな影響を与え るモデルケースとなるのではないでしょうか。
<<【5日目】
まとめ
前回北欧を視察した際と同様に、今回の欧州視察でも、日本の住宅の省エネルギー化、特に断熱性能における遅れを痛感し、 未だに北欧や欧州との差は、全くと言っ ていいほど縮まっておらず、今さら断熱性能を前面にアピールする企業すら見当たら ず、断熱強化は過去の話で、ZEH 普及率に関しても、日本の基準は他国に比べて低 いにもかかわらず、40%台にとどまっている現状は、少なくとも15 年は遅れていると考 えられます。 さらに、今回の視察で最も印象的だったのは、欧州において建築におけるエンボディ ードカーボン(CO2 の固定化)が着実に進められ、 既に次のフェーズに入っており、 持続可能な環境を残すため、建材はむしろ時代を遡り、自然素材回帰の動きが顕著 でした。 対照的に、日本の建設業界は、化石燃料を多用する工業建材を大量に使い、短寿命な住宅を量産している現状は、他の先進国が目指す時代とは、大きく逆行していると 強く感じました。 しかし日本の住宅にも、かつては豊かな暮らし、環境負荷の少ない建材を用いた高 い技術力、そして美しい文化が息づいていました。今一度、そうした古き日本の良さを 取り入れた建築技術の原点回帰と高断熱技術との融合を図るべき時が来ているので はないでしょうか。 今後は視察で得た知見を活かし、イケダコーポレーションの皆様や滝川さんと同様に、より豊かな暮らしの実現とサステナブルで持続可能な環境づくりを目指し、少しで も多くのお客様にその素晴らしさを伝え、届けていきたいと考えています。
寄稿/株式会社彩 代表取締役 大坪宏記さま
福岡県みやま市を拠点に、「自然素材の質感や特性を活かし、季節を感じ、日々のより上質な暮らしを大事に考えた住宅」を提案する。パッシブ的思考をもとに自然の気候エネルギーをうまく活用し、コントロールできるよう計画的に「間取り」や「窓の配置」、「屋根の形」を考えることで、夏は涼しく冬は暖かい、空調依存の低い光熱費を最小限に抑えることが可能な真の省エネ住宅を目指す。