【28th エコバウ建築ツアー2025】コラム DAY.1

2025年12月9日

今年で28回目となるエコバウ建築ツアー。ドイツ・オーストリア・スイスを訪れ、木材の循環利用と建築の最前線を視察しました。今年のテーマは「木の循環と建築」です。脱炭素社会の実現に向け、森林資源の適切な活用と木造建築の役割が改めて注目される中、持続可能な仕組みづくりの重要性を実感しました。本コラムは、参加者である株式会社おりなす設計室代表取締役田渕一将様より寄稿いただいた内容を元にご報告致します。

日程	行き先	都市
2025.10.19	・出国	日本 → ドイツ
2025.10.20	・STEICO本社オフィスビルの見学、吹込みの実演・ウェルカムパーティー	ドイツ Munich
2025.10.21	・バウビオロギー協会IBN ホルガー・ケーニッヒ氏講演・フロリアン・ナグラ―氏実験集合住宅	ドイツ Rosenheim近辺
2025.10.22	・ヘルマン・カウフマン氏建築案内　ベザウ村の製材所アルミン・メッツラー社　エッグ村の戸建て豪邸ヘーバー邸・若手建築家マティアス・ベア氏建築案内　ヒッティサウ村の学校建築群	Vorarlberg州Bregenzerwald地方 Hittisau村
2025.10.23	・カーボンポジティブ木造集合住宅OPENLY ・木造会社ブルーマー・レーマン社	スイス Widnau村 Gossau村
2025.10.24	・HAGA本社ブルッグ旧市街改修事例見学・ロルフ・シュトリッカー氏ヴィラ村近自然の森案内	スイス Rupperswil村
2025.10.25	・木造集合住宅 Claywood ・チューリヒ市内自由時間・さよならパーティー	スイス Wetzikon村
2025.10.26	・帰国	スイス → 日本

木繊維断熱材STEICO本社

ミュンヘン空港からバスで約30分、最初の訪問先はSTEICO社です。日本では木質繊維断熱材メーカーとして知られていますが、LVL(単板積層材)など木から製造できる様々な建材を提供している企業です。木質繊維断熱材に対して、私が以前から気になっていたのは製造時CO２排出量です。カーボンニュートラル実現に向けて、世界各国で建築のLCA（ライフサイクルアセスメント）への関心が高まりつつあります。会社及び商品説明の際には、その点も数値として明示されていました。木材が成長する過程で貯蔵するCO2に対して生産時のCO2排出量はその１／３。改めて大変環境に良いことがわかりました（日本では、輸入による運搬のCO2排出量も加味する必要があります）。

また、既にEPDの認証制度(製品の原材料調達から製造～使用～廃棄まで、ライフサイクル全体にわたる環境負荷を定量的に評価したもの)が普及している欧州ですが、EPD認証の取得は補助金を受ける条件となっているとのことです。日本ではまだまだ取り組みが進まない部分、国の姿勢にとても大きな差を感じました。

吹込み実演

商品説明の後に、「シュタイコゼル」の吹き込みの実演を行っていただきました。木質繊維は充填する際に繊維同士がかみ合うことで、粘り強く、沈殿が起きにくい特徴を持つことを教えてもらいました。さらに一度吹き込んだあとでもゴミなどが混ざらなければリユースが可能という話も魅力的です。今回の訪問を通じて、STEICO社の製品群が単なる“断熱材”ではなく、再生可能資源としての木の価値を最大限に引き出すシステムであることを実感しました。環境性能を「感覚」ではなく「数値」で示し、政策とも連動させていく欧州の姿勢は、日本の建築産業がこれから学ぶべき重要なポイントです。素材選定や設計判断にLCAの視点を取り入れることが、今後の建築における新しいスタンダードになっていくと感じました。