今年で28回目となるエコバウ建築ツアー。ドイツ・オーストリア・スイスを訪れ、木材の循環利用と建築の最前線を視察しました。今年のテーマは「木の循環と建築」です。2日目のコラムをお送りいたします。 本コラムは、参加者である株式会社おりなす設計室 代表取締役 田渕一将様より寄稿いただいた内容を元にご報告致します。

ミュンヘンからローゼンハイムへ移動し、バウビオロギー協会IBNへ。この施設は、元は平屋の食料品店だった建物を「バウビオロギー(建築生物学)」の考え方に基づいて増築＆改修したもので、土・石灰などの循環可能な自然素材の採用、接着剤を用いない木材利用、コントロールされた昼光、高周波・低周波の少ない照明器具の選定など様々なアプローチで計画されています。身体へのノイズが極めて少ない住環境を体感しました。それだけではなく、パッシブハウス認定の取得や太陽光発電・ペレットストーブの活用などエネルギーへのアプローチも積極的に行われています。

バウビオロギー建築の第一人者であるホルガー・ケーニッヒ氏の講演では、LCA（ライフサイクルアセスメント）評価の話を通じて、“(植物化学由来の)再生可能な原料のたどる道筋”と“(石油化学由来の)有限な原料のたどる道筋”についてのお話があり、持続可能な建築のアプローチには“成長する資源の循環”が欠かせないことを理解しました。ここ数年で話題になりはじめたLCAについて1990年から探求をスタートしているそうです。バウビオロギーの考え方は、環境と建築の両立を考えた末にいつかたどり着く場所で、時代がようやく追いついてきたのだと痛感しました。

ローゼンハイムからバスで約20分、午後からはフロリアン・ナグラ―氏と合流して、集合住宅のプロジェクト群を見学しました。まずは３棟の同形状ながら素材が異なる集合住宅を見学。

フラライトコンクリート(断熱性能を持つ無筋コンクリート)」による躯体、「空気層を持つ木製３層パネル」による躯体、「断熱機能を持つレンガ」による躯体で施工されています。「いかにシンプルな構造体と最小限の設備機器で住環境を構成できるか」というチャレンジをし、国からの助成金を受けているプロジェクトです。ここでは３ｍ×６ｍの平面且つ3.3ｍの天井高さを理想的な空間ボリュームと定義し、それに準じた空間構成となっています。
24時間換気の設置義務が無いようで、住民による窓開け換気のみで換気を賄っています(水回りは別途換気設備あり)。天井高のある空間のおかげもあって、自然換気のみでも気にならないそうです。夏の熱を防ぐバランスを考慮して窓を設け、夏季は壁の厚みで日射取得をコントロールしています。

3棟の集合住宅の見学後は、実験棟の改善版として作られた木造集合住宅へ。木造建築の課題となる蓄熱容量の確保のため、階段室のみコンクリートで計画されています。ここでも換気については住民による窓開け換気のみでした。バルコニーや窓回りの造作などで日射取得をコントロールしていることも外観から伝わります。

欧州と言えば、レンガなどの組積造建築の歴史がありますが、燃焼による製造時ＣＯ２排出量の課題を抱えているようです。現在は非焼成の粘土レンガが開発され、今回見た事例では耐火性能が求められる階段室などに活用されていました。その他にも土を活用した床スラブなどもあり、日本の建築様式以上に「土」という素材が身近にあることと、それが現代においてまた見直されていることを体感しました。