
今年で28回目となるエコバウ建築ツアー。ドイツ・オーストリア・スイスを訪れ、木材の循環利用と建築の最前線を視察しました。今年のテーマは「木の循環と建築」です。3日目のコラムをお送りいたします。
本コラムは、参加者である株式会社おりなす設計室 代表取締役 田渕一将様より寄稿いただいた内容を元にご報告致します。
| 日程 | 行き先 | 都市 |
|---|---|---|
| 2025.10.19 | ・出国 | 日本 → ドイツ |
| 2025.10.20 |
・STEICO本社 オフィスビルの見学、吹込みの実演 ・ウェルカムパーティー |
ドイツ Munich |
| 2025.10.21 |
・バウビオロギー協会IBN ホルガー・ケーニッヒ氏講演 ・フロリアン・ナグラ―氏実験集合住宅 |
ドイツ Rosenheim近辺 |
| 2025.10.22 |
・ヘルマン・カウフマン氏建築案内 ベザウ村の製材所アルミン・メッツラー社 エッグ村の戸建て豪邸ヘーバー邸 ・若手建築家マティアス・ベア氏建築案内 ヒッティサウ村の学校建築群 |
Vorarlberg州Bregenzerwald地方 Hittisau村 |
| 2025.10.23 |
・カーボンポジティブ木造集合住宅OPENLY ・木造会社 ブルーマー・レーマン社 |
スイス Widnau村 Gossau村 |
| 2025.10.24 |
・HAGA本社 ブルッグ旧市街 改修事例見学 ・ロルフ・シュトリッカー氏ヴィラ村 近自然の森案内 |
スイス Rupperswil村 |
| 2025.10.25 |
・木造集合住宅 Claywood ・チューリヒ市内 自由時間 ・さよならパーティー |
スイス Wetzikon村 |
| 2025.10.26 |
・帰国 |
スイス → 日本 |
クルムバッハ村とヘルマン・カウフマンの建築群
前日の内にオーストリアのフォアアールベルク州へ移動しブレゲンツ地方へ。クルムバッハ村という人口1000人程度の村でありながら、パッシブハウス認定された省エネルギー建築が世界一の密度で建つ地域に到着。


ここで、オーストリアを中心に様々な木造建築を手掛ける世界的な建築家であるヘルマン・カウフマン氏と合流しました。カウフマン氏にご自身の設計事例と村を案内していただく中で、この地域は産業・観光・工業がうまく成り立っていて、観光地にありがちな宿泊施設優先の作り方をせず、村であることを大切にしている(そうでない観光地が多い)という話を伺いました。過去にはバロック様式の教会建築などを手掛ける職人集団が山奥で修行を積む「手仕事」の地域として栄えましたが、60年代頃に廃れてしまった歴史があります。後にカウフマン氏などの建築家がその地域の歴史と魅力を掘り起こし、今改めて品質の高い職人たちが集まる「手仕事」の地域として脚光を浴びています。


カウフマン氏は、木という素材に対してのこだわりを随所で伝えてくれます。例えば、経年変化について。無塗装の木外壁は年月を追うごとに経年変化していきますが、その変化の度合いは、方位や雨がかりの影響によって異なるので、その変化の度合いを想定して将来どのような景観になるかを考慮した設計を心掛けているそうです。この地域は古くから無塗装木外壁の建築が多く現存する地域で、木外壁の建築が新たに建てられたとしても、木という経年変化する素材のおかげで新旧が調和する街並みを実現しています。
また、「木造建築が増えているがコンクリートを木に置き換えただけの建築も多い。木は独自の言語を必要とする。」というカウフマン氏の言葉には、木にこだわる建築家の矜持を感じました。私はこれを木造建築ならではの規律やディテール、そこから生まれる美しさについての言及と解釈しました。これを読んでいる方はカウフマン氏の言葉をどのように感じているでしょうか。
また、「木造建築が増えているがコンクリートを木に置き換えただけの建築も多い。木は独自の言語を必要とする。」というカウフマン氏の言葉には、木にこだわる建築家の矜持を感じました。私はこれを木造建築ならではの規律やディテール、そこから生まれる美しさについての言及と解釈しました。これを読んでいる方はカウフマン氏の言葉をどのように感じているでしょうか。

昼食後は、巨大な木材倉庫建築へ。約30mのスパンをアーモンド形の梁でとばしています。「なるべく集成材を避けたい」というクライアントのオーダーを受けていて、下弦材は集成材ですがその他は無垢材が使われています。大スパンの空間の中に巨大な木製梁が並ぶ様は圧巻です。


そこからさらにカウフマン氏の祖父の代から続く工務店へ。工務店と言っても日本で想像するような規模では無く、壁パネル製作や木造ユニット製作の大きな工場も併せ持っています。
カウフマン氏に、ユニットの施工エリアについて尋ねた際に、木造ユニット建築の可能性について次のように語ってくれました。「この近辺にはこのパネルやユニットを作るための大工や窓職人(木製の高性能な窓)などが揃う。そのおかげでこの町には仕事が生まれて、人が集まり、豊かになっている。農村部ならではのイノベーションだ」。これは、日本の地方においても実現できる可能性を感じています。
マティアス・ベアの手掛ける地域木材でつくる学校建築群
カウフマン氏と別れ、ヒッティサウ村の学校建築群の事例を見学。この事例では「地域産木材の積極的な使用」や「ローテクの環境戦略実施」などが条件となる設計コンペが行われ、実現されています。
外壁には地域のモミやトウヒを採用し、内装にも木材を積極的に用いています。ローテクな環境戦略という点は、過剰な設備を避ける形で実現しています。換気については、ベースの換気システムと併用して、教室に設置されたCO2モニターが基準値を超えると教師に信号を送ることで窓開け換気を促し、CO2濃度が低下したら窓を閉めるよう促すシステムとなっています。
暖房については、既存の地域熱供給システムを活用していますが、夏の間の冷房設備は設けられていません。夏は、内外の温度差が十分にある状況で自動的に夜間冷却を行うための電動開閉窓が、換気用窓とは別に用意されています。これらは設備が不十分にならないよう環境シミュレーションを踏まえて慎重に設計されています。
暖房については、既存の地域熱供給システムを活用していますが、夏の間の冷房設備は設けられていません。夏は、内外の温度差が十分にある状況で自動的に夜間冷却を行うための電動開閉窓が、換気用窓とは別に用意されています。これらは設備が不十分にならないよう環境シミュレーションを踏まえて慎重に設計されています。


このプロジェクト自体が、EUの建築技術研究所によるローテク技術研究のパイロット版プロジェクトであることから、欧州の建築の現在地は、断熱・気密・パッシブデザイン・換気及び空調システムでの省エネルギー実践の天井を叩いた後の引き算による環境配慮へのアプローチの模索なのではないか、と感じました。

| 参加者の声 | 過去に何度もパッシブハウスなどの建物を視察して10数年前と比べるとものすごく進化しているのを感じました。先進国と言われている日本が途上国の様な気がしてなりませんでした。 日本もこれから追いついていかねばならならないとは思いますが資材高騰で安価な石油製品で出来た商品を使って建てられる建物が今以上に増え化学物質過敏症などに悩まされる方も増えてくるのが心配です。公共の建物などが率先して高性能+自然素材を使って人にも地球にも優しい建物がお手本となることを願いたいです(愛媛県 髙岡様) |
寄稿
代表取締役 田渕 一将 さま
1987年鹿児島県生まれ。設計事務所やハウスメーカーで経験を積み、2019年に「おりなす設計室」を設立。
地域の風土と木の魅力を活かした高性能住宅を手がけ、2023年に法人化。
鹿児島を拠点に、省エネと快適性が両立する建築を手がける。



