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積雪地域での木繊維断熱材シュタイコ -地域にベストな建築を-

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    シュタイコ

    断熱材

「断熱」と聞くと、夏と冬のどちらに対するイメージが強いでしょうか?
イケダコーポレーションで取り扱っている木繊維断熱材シュタイコは、その比熱容量の大きさから「夏の断熱」として推奨してきました。実際に地球温暖化で夏はどんどん暑くなり、日射対策としてシュタイコの比熱容量は効果を発揮します。しかし、冬の断熱性能を知る上では熱伝導率の数値のみで比熱容量や蓄熱性といったデータは省エネ性能に表すことができません。省エネとは年間を通してCO2排出を減らさなくては意味がないのに、シュタイコ=夏に効果があるだけで果たしていいのか?冬では比熱容量の効果を室内側で発揮することはできないのか?快適さとは何か?ということを、2024年 当社の年始研修にて、東京大学工学部建築学科の前准教授を講師にお招きし、改めて考える機会をいただきました。

タイムリーというべきか、昨年末より「雪国での真冬のシュタイコを体感したい」と、秋田にアトリエを構えるもるくす建築社の佐藤欣裕さん、そして佐藤さんが設計されたモデルハウス(施工:小田島工務店さん)を年明けに見学させていただくスケジュールを立てておりました。実際に現地に伺った日は、帰りの飛行機が欠航になるほどの大吹雪!まさに「真冬のシュタイコ体感日和」でした。
今回は佐藤さんの建築への思いやこだわり、小田島工務店さんモデルハウスでのポイントと共に体験レポートをお届けします。

 

MOKU -SUI−木粋−「六郷大町プロジェクト」

秋田アーキテクトプロジェクト「MOKU-SUI ―木粋―」は、秋田の環境や住まい方を熟知した建築家と、小田島工務店がコラボレーションして「秋田で暮らし続けること」をテーマにした住宅を提供するプロジェクトです。木をはじめとした自然素材をふんだんに使い、高い省エネ性能の住宅を提供することで、エネルギー、素材、デザイン面で長く持続可能な住宅と地域をつくることを目指しています。

MOKU-SUIホームページより)

↑今シーズン始めての大雪とのことでした。

 

3棟からなるモデルハウスのうち、佐藤さんが手掛けられたのは中央棟。3社で一つの町としてそれぞれの棟を設計する上で、外観や雪の処理に対する部分などは統一させ、室内設計はお任せします、というのが条件。高齢者向けという設定で始まり、高気密高断熱の技術はある程度確立してきている中で「ちょうどよくまとめたい」という思いから、チャレンジではなく確実な技術を届けることを一つの軸にされた佐藤さん。その結果「すごく珍しいものではなくなった」と言うものも、「確実な躯体の中に緩やかな変動(ゆらぎ)をもたらす」工夫と技術が盛り込まれていました。

 

解説前の体感

室内で感じたのは、シンプルに「落ち着く」ということでした。雪の舞う寒いところから暖房の効いた場所に入れば暖かいのは当然ですが、例えば電車やコンビニにコートを着たまま入ると、最初こそ暖かさにホッとするものの段々と暑くなったり、そうして上着を脱ぐとまた寒くなったりということがありますが、終始そういった不快感はありませんでした。年始の東京大学・前准教授の講義の中で印象に残っているのが『快適』と『快感』の違いについてのお話で、「暖かい」「涼しい」と感じるのは『快感』、そこにいて何も感じないことが『快適』だと。まさにこれが『快適』なんだと実感しました。
平屋19.5坪の室内を暖めているのはパネルヒーター。エアコンも設置してありますが、私たちが到着した時は小田島工務店さんが数十分前に電源を入れたパネルヒーターのみ。しかしその段階から寒いとは全く感じず、前日もモデルハウスの見学会があったとのことで、これはシュタイコの熱伝導率、特に蓄熱効果が一役買っているのかと思いました。

 

佐藤さんによる解説

ゆらぎ①「風」

 

まず入り口には積雪地域特有の風除室があります。ガラス張りで雪や外気をしっかり防ぐものではなく、風が通る隙間があり正直な最初の感想は「隙間から雪が入っていますが…」でした。しかしコートの雪を払うのには「ちょうどいい」空間、直接の風や雪からは守られています。この風通しの良い風除室、真の目的は夏にありました。

この地域は西風で、西向きの玄関から居間、開かれた寝室を横切り東へ直線的に流れていきます。窓はトリプルガラス、屋根の断熱はシュタイコゼル360mm、日射熱はこれらで防ぎつつ、建物の一番高い位置に設置された排熱窓で暑さを和らげます。そしてここで真価を発揮するのが風除室です。西の玄関ドアと東の窓を開ければ西風が家の中を通り抜けるようになっています。夏は空気を動かし、冬は対流空気を緩めることで快適さが生まれますが、夏の「ゆらぎ」のために冬の設備である風除室を使うことは新しいと、施工された小田島工務店さんも感嘆されていました。

 

 

またこの「風の動線」と並行するようにキッチンから洗面所までの廊下にあたる部分が「生活の動線」として設計されているので、人が風を遮ることも風が生活に余計な干渉をすることもありません。

 

 

ゆらぎ②「温度」

 

北側にはキッチン、そして勝手口とバックヤードがあります。このバックヤードは暑さを嫌うもの、例えば生ゴミを置くのに動線的にも使いやすい配置です。地域特有の「お漬物の保管」や、自然の冷気でビールも冷やせます。

西側には風呂場、洗面台、乾燥室を配置。西はこの家の正面でもあり、小さい窓を並べると裏側のように見えてしまうのは良くないということで、1坪の広々とした乾燥室には大きな窓を設けました。一年を通して温度が上がっても良い場所は、乾燥室と風呂場だけ。むしろ乾燥室は温度が上がればよく乾くので、そうしたものを西側に持ってくることで外観としての窓の役割と、室内効率としての窓の役割を両方活かすことができます。

常に快適な温度を保つ南向きのリビング、冷やしておきたい北側キッチン横のバックヤード、温度の上昇をよしとする西側の乾燥室。19.5坪の平屋の中に自然の「ゆらぎ」による温度差をつくることで、無理なく効率の良い生活をすることが可能です。
また、この温度差をつくり出すのに欠かせないのが断熱性能です。平屋で屋根が大きいのに加え天井も近いため、天井と屋根の間に入る断熱材が重要になります。木繊維断熱材シュタイコは冬も室内の温度を適温に保ち、方角や間取り、窓の大きさを適切にレイアウトすることで、各部屋の目的に沿った室内環境を維持できます。
このモデルハウスのメイン暖房システムは、パネルヒーターです。エアコンのような暖房器具で空気の温度を変えると室内は次第に乾燥するので、湿気を戻すために換気システムでの調整を組み込むなどして次々と「問題解決するための問題」が出てきます。空気を温めるのではなく、周辺環境を整える放射熱を利用した暖かい部屋では、相対湿度が下がりにくい。日射やパネルヒーターで壁の温度を上げるので、断熱性能が高いほど必要な熱源(エネルギー)は少なく、よりシンプルな設計になり、シンプルだからこそ「ゆらぎ」を感じることが可能になります。

 

 

ゆらぎ③「家具」

 

高齢者のご夫婦向けに設計された建物は、たくさんの人が集まった時に融通が効くように畳部屋を設けています。部屋のボリュームが小さくなるほど、床や壁に硬い材料を使うと音の反響は大きくなるため、吸音効果のある畳やラグ、カーテンなどで音の反響を和らげ、建物だけでなく家具やインテリアも含めて空間を整えることが大切だと佐藤さんは言います。
床の建材に合わせて家具を選ぶのではなく、家具に合わせて色調などを揃える。新しい家だからと新しい家具ばかりを入れるのではなく、時間の経過を感じる古い家具で趣を出す。昔より「柔らかいものは贅沢である」ことから、柔らかい畳の上にさらに柔らかいラグを敷くことで心から安らげる空間にする。住む人の生活をイメージしながら、新しいもの、調和されたもの、安心感を与えるもの…。どの場所にどういった家具を配置して空間の「ゆらぎ」を生み出すのかも、佐藤さんのこだわりの一つです。

↑カーペットを敷くのは椅子やテーブルの脚で畳を傷めないためにも○

 

ベーシックの積み重ねでベストな工法

今回の施工に関して、小田島工務店さんは「若い大工の良い経験と勉強になった」とのこと。様々な細かい箇所の工夫があり学びは多いが、難しい施工ではなかったそうです。佐藤さんも今回のプロジェクトの軸である「チャレンジではなく確実な技術を届けること」から、この設計に組み込まれているのは確実でベーシックな技術の積み重ねだと言います。見学者からは「ちょうどいい」「安定感がある」との声が多いそうで、初めに「ちょうどよくまとめたい」と仰っていた佐藤さんの軸が一般の方にもまっすぐ伝わっていました。
佐藤さんに「もしもこのモデルハウスに更に手を加えるとしたら?」と伺ったところ、窓を木製に替えコンクリートを極力減らしたいとお答えいただきました。
「時間が経ってプラスチックやコンクリートの価値が上がることはないが、木という素材は時間をかけて良さが増していく。地域の環境に合わせた建築を造った、快適な室内環境を実現した、できたものが素晴らしいで終わりではなく『陳腐化しないものを造る』ためにまずは材料を変えていきたい」とのこと。シュタイコについても始まりは「木造と木繊維の相性が良いのは当たり前」というところから自社アトリエや様々な建築にご採用いただいています。
またこれからチャレンジしたいことに「賃貸住宅」を挙げた佐藤さん。先のコンクリートを減らす話からの繋がりで「造る段階からCO2の排出はコンクリートの負荷が大きい。短いサイクルで新築ばかりを建てる日本の建築は世界を見ても珍しく、造っては壊しを繰り返すのではなく一棟しっかり長持ちするもの、壊さずにアップデートできるもの、最低でもリサイクルできるものにしていかなければならない。また、エコロジーな技術とは生活に苦しい人たちにこそ本来必要なこと。性能の高い賃貸住宅があれば、寒い時期の光熱費が抑えられるので、お金に余裕のある人ではなく高齢者や生活の苦しい人たちに使って欲しい」と語って下さいました。

佐藤さんの建築は、自然の原理に逆らわない設計が特徴です。日本は戦前まで木造建築が主でしたが、各地方の伝統建築などを理詰めで考えながら見てみると、力の関係や使い勝手、耐久性など「なぜこのように使われているのか」を読み解くことができると言います。20代前半でヨーロッパに渡り様々なものを見て学び、日本の建築における問題点や環境にベストな方法を追っているうちに、現在の工法に至ったそうです。しかしそれもまだ発展途上、常に情報をアップデートしながら挑戦を続ける佐藤さんが今後どのような建築をされるのか、シュタイコに関してもどのような使い方をしてくださるのか期待が高まります。

 

・有限会社もるくす建築社 代表取締役 佐藤 欣裕
秋田県美郷町にアトリエ「もるくす建築社」を構える一級建築士。
独学で建築を学び、2012年に父の会社を継ぎ代表に就任。スイスやオーストリアのサスティナブル建築から大きく影響を受ける。 環境建築分野を中心に活動。
2017年「佐戸の家」で第18回 JIA環境建築賞最優秀賞を受賞。

小田島工務店
昭和28年に創業し、建築・土木を中心として、地域に根ざしたものづくりを行う。
「宮大工のいる工務店」として伝統の技術・技法を継承。
現在は秋田県美郷町に事務所を構え、『あなたのために造ります』という経営理念のもと地域の様々な建設に携わる。

(筆者:イケダコーポレーション マーケティング部 沖本)

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