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第10回 (2006)|エコバウ建築ツアー報告記

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エコロジー建築の先進国ドイツを中心に「自然素材」「自然エネルギー」「パッシブ住宅」を見学、設計者自身が解説する「エコバウ建築ツアー」

 

2006年は、10回目の開催となりました。400人近い参加者の方々が、帰国後エコバウ建築ツアーの体験を通して、全国各地で「自然素材の呼吸する住宅」を建てられ、10年の時を経て日本の住宅を変えつつあります。

 

日本からのツアーコーディネーターとして、建築家泉幸甫氏最先端であるドイツ・スイスのエコロジー建築を視察しました。

 

新建ハウジング」掲載記事も併せてお楽しみください。

 

 


「新建ハウジング」(2006年11月〜2007年4月)

 

ツアーレポート


 tour report

 

Day1ミュンヘン

アイヒナウ幼稚園-省エネリフォーム

30年前に建てられたミュンヘン近郊のキリスト教会の幼稚園。暖房効率が悪く、省エネルギー化したリフォームを決定してから、リフォームが進むにつれ柱や梁が防腐剤のPCPで汚染されていることがわかった。全面的に自然素材を使用しているが防腐剤を除去することはできなかった。リボス自然塗料の「BASKOシェラックニス」は、貝殻虫の体液を利用したニスで古くはバイオリンのストラディバリウス(英:Stradivarius)で使われている塗料。このBASKOを PCPで汚染された木材に塗る事で、表面を皮膜しPCPやホルムアルデヒドを封じ込め、建て直さ必要がなくなる。この処理の後、この幼稚園は高断熱、省エネ、漆喰と木のインテリアで仕上げられ、幼児達の元気に走りまわる姿が見られる場所に生まれ変わる。

年間石油使用量わずか2リットルの住宅

若年層夫婦が購入できる低価格でありながら、パッシブハウスと木のファサード、サンルーム、ルシードシステムなどで超省エネ住宅。一般的な住宅に比べ90%もの電気と石油削減量を達成。外気が-20度を下回るこのドイツでほとんど暖房エネルギーを使わない、そんな住宅だからランニングコストや大きな庭があること、そして 漆喰のインテリアと木の外装で100年持つ住宅を目指している。建築費も木の外装パネルを工場でプレハブ化しているため、高い精度と省力化でローコスト。ここドイツではパッシブ住宅、自然素材のエコロジー住宅が一部のお金持ちのための住宅という時代は終わり、誰でも住めるにエコロジーな家造りが大規模に始まっている。

オーガニック農場 ヘルマンスドルファー

ドイツで立身出世物語として語られるソーセージ会社の創業者が、息子達へ経営を引き継ごうとした時、息子達から言われた言葉は「人間に有害なソーセージを売って得た利益で大きくなった会社を引き継ぎたくない!」の一言。結果的に創業者は会社を売却し、そのお金で人間の健康に役立つ、オーガニック以上のDemeter認定の農場を開いた。この考えに共感したヨアヒムエーブレ氏が施設を設計し、全てのエネルギーをバイオエネルギー完全自給、無農薬、動物本来の生育環境で飼育と言う環境を整えた。結果的にバイエルン地方のオーガニック農場として、寒村を豊かで次世代のモデルとなるエコロジー農業に変えた。併設のレストランで出されるメニューはオーガニックは当然、調理方法も古くから伝わる調理方法を採用している。

Day2リンデンベルク

レーベンスヒルフェ

ミュンヘンからスイス国境近く、標高800mの「霧の出ない高原の保養地」として有名なリンデンベルグにある障害者作業施設「レーベンスヒルフェ」。ミュンヘン工科大学とフラウンホーファー研究所のユニバーサルデザインのノウハウと最先端の省エネ技術「ソーラーバウプログラム」を取り入れて作られたエコロジー建築だ。地下水のヒートポンプとペレットストーブで温度管理をし、冬は外気温-20度にもなるこの地で常に18度に保ちながら、一般的な施設の1/10程度のエネルギー使用量に抑えているパッシブハウスである。ソーラー、地熱、自然換気など最先端の自然のエネルギーと建物自体に使われる大量の木材、自然素材と天然の色彩などが評価され2006年ドイツエコロジー賞を獲得している。

ガラスと木、そして自然から得たインテリアとエクステリアの造形が障害者の生活を精神的に豊かにし、安心してコミュニティの中で働き、生活する支えとなっている。入居者は車の部品を作ったり包装したりなどの手仕事を中心に作業し、相当な年間生産数をこなしている。この施設から「家造りとは単なる家を作ることではなく、社会を作り、暮らしを創る大きな要素だ」と言うことを教えられた。

 

カントン高校

2004年に完成した床面積14.743㎡、3階建ての木造建築の高校。伝統的なスイスの住宅は木造建築だったが、近年コンクリート建築が増えた。二酸化炭素増加と温暖化阻止のため、豊富に産出するスイス木材をもう一度見直し、更にモダンな現代の多層階建築でも十分耐久性と強度を持つことを証明したスイスでもっとも大きな木造建築。強大な木造構造柱は5000本の唐松、もみ等を使い、中空の厚み1mの柱は最長32mにもなる。木が持つ本物の素材感とモダンなインテリアデザインが調和し、ハイセンスで上質な空間を作っている。木が作る外装の美しい表情と機能、そしてモダンな図書館のデザインが特に素晴らしい。

 

キンダーガルテン パラディエス幼稚園

小さな天国と名づけられた「キンダーガルテン パラディエス幼稚園」はわずか193㎡の小さな平屋の建物だ。最先端建築として「2003年ソーラー賞」を受賞している。木とガラスで居心地の良さそうな空間は、外壁に貼られたガラスの内側に蛇腹のような形状の木のパネルが貼られ、外から入る太陽熱で冬は暖かく、夏は熱を逃がす「ルシードシステム」を採用している。また、夏は地下水を使った冷水、冬は温水を通して暖房。暖房はCROSS-flow熱交換機を使い、その結果、ドイツ、スイスのパッシブ住宅の基準値をクリアし、必要な熱エネルギーはわずか154kWh/㎡の最先端の省エネ住宅になっている。外気は常に外から取り、温水と冷水を循環させ温度を調整する。もちろん内装は自然素材の無垢の木と漆喰、自然塗料。

 

 

王家のワインセラーと赤いファサードの家

アルプスの山々をバックに建築家が自分の住居としてデザインした赤い外壁のモダンな住宅。この住宅は、モダンな外装に対して内装はスイスアルプスで産出する200年前の粘土スイスロームを使った内装。モダンとナチュラルが融合した次世代の住宅になっている。ここから500mほどのところにあるリヒテンシュタイン公国のワインセラーがあり、国王が所有する小さなぶどう畑から少量のワインが作られ、このセラーで熟成される。この希少なワインを熟成するために、余分なにおいや化学物質を分解し、一定した温度や湿度にしておくための建材としてスイス漆喰が選ばれた。

 

最新断熱技術ルシードシステムの建売住宅

200年前のアパートを見下ろす丘陵の上に建つモダンデザインのパッシブ省エネ住宅は、木をブラインド状に加工して、透明な外壁素材に挟み込む最先端のルシードシステムを採用し、地下水をヒートポンプで冷房、バイオマスを暖房に使い、電気利用料が全く不要な建売住宅。

価格は通常の住宅に比べ8%ほど高いものの、ランニングコストが非常に低いことと、中古の住宅として売り出す際、15%ほど高く売ることが可能とのことで十分魅力的な建売住宅として「2006年ソーラープライズ賞」を受賞。この住宅の設計者であり住人でもある女性設計士のジュゼッペさんは自然素材を取り入れ高気密を実現した。

 

Day3スイス

ヴァルムビュール多世代向けエコロジー団地

3世代以上に渡って長く住めることをテーマに、自然素材とパッシブ自然エネルギーのテラスハウス。外部は唐松のファサード、内装は漆喰にセルロース断熱材を採用。住宅を作る前の段階の建材運搬時にもトラックではなく貨物列車を使うと言うエコロジーへのこだわり。他にも雨水タンク(12000L)で雨水の活用、窓は最も断熱性、耐久性が高い木のサッシ。木を多用することでコンクリートを減らし電磁波を減らす。このエコ団地があるヴィンタートゥール地方では市が健康建材=baubiologischをリスト化しており、この団地もそのリストの中から選んだ建材だけで建てられた。

 

今ヨーロッパがなぜエコロジーなのか?と言うことについては地球温暖化や環境悪化などの世界共通の要因以外に、「人間中心」と言う根底の考え方があるように思える。戦後の高度成長期時代に効率のみを追い求め、かつて世界に誇る建築技術や文化を忘れ、人間の暮らしを二の次にまわした日本に対して、伝統の文化や生活習慣、街並みを強固に守り通しているヨーロッパ。そんな本来の人間らしさを追及し、ドイツ・スイスのエコロジー建築家に大きな影響を与えているのがルドルフシュタイナーだ。

今回のエコバウツアー訪問の最大のハイライトとしてシュタイナーの本拠地ゲーテナムがある。ゲーテに影響を受けたシュタイナーは人の成長には住む環境が非常に重要であることを提唱し、建築家としても独創的で今でも影響力のある建築物を残している。「人智学」で人間中心のシュタイナー建築は、100年以上前の建築家でありながら、既に現在のエコロジー住宅に通じる考え方で設計されている。その基本は「自然界に直線は存在しない」「自然の素材・色が住む人を快適にし、人間として成長させる」などで、曲線、自然素材、天然の顔料だけを使って作られる空間は、今まで見たことの無いやわらかい空間を作っている。このシュタイナーに影響を受けた建築家が、ドイツ・スイスのエコロジー建築の中心になっているが、そんな考え方を言葉にしたのが「エコバウ」で、エコロジー+バウビオロギー(建築生物学)の造語である。生物のように「呼吸する住宅」である。

Day4ドイツ

フライブルク ドイツ

ドイツ南部のフランスに近いフライブルク市は人口20万人の小さな町。この町が「エコロジーの聖地」と言われたのは、今から20年前の1986年、この地に原子力発電建設が計画された時から始まった。原子力発電に反対するフライブルクの若者達が、その後のチェルノブイリ原発事故もあり市民からの支持を得て、「3つのフライブルク エネルギーコンセプト」を作ったことが、その後のエコロジーの聖地」への第一歩だった。

① 省エネルギー

②コージェネ発電

③自然エネルギー開発

このコンセプトを基にフライブルク市民が団結し、原子力発電を不要にするだけのソーラー発電設備を建設し始め、今では「ソーラーの町」とも呼ばれるほど、あらゆる住宅の屋根にはソーラーパネルが当たり前のように設置されている。市民は原子力の電力とソーラーのグリーン電力のどちらを使うか選択でき、新築住宅はソーラー発電パネルか、または屋上緑化のどちらかを選んで建てなければならない。また、住宅地には駐車場が無く、少し離れた場所に巨大なソーラーパネルの屋根を持つ駐車場に駐車するので、住宅地には車が一切通らない、路面電車の線路は緑化され市民の足としてなど、市民と行政が一体となって徹底的なエコロジーを実践している。

市営住宅には緑があふれ、その内外装は天然素材のスイス漆喰や自然塗料、そして無垢の木などを多用し、全ての市民が快適な生活を送れる環境が整っている。「NOではなく、YESと言えることを考える」を合言葉にフライブルク市民は自分達の町を20年の間に世界で最先端のエコロジーな町に変えた。環境を守るために一市民がどうするべきか?そんな答えがここフライブルクにはあった。

フライブルク市は、先進的な環境への取り組みと自然が多く住みやすい環境だけでなく、働く環境からも徹底的にエコロジーを通している。その一つが最先端のソーラーパネル工場と自然エネルギー技術開発の会社であり、また高校を出たばかりの若者にソーラーパネルの取り付けや修理、設計などを教える専門技術学校などを設けている。ビジネス面でもエコロジーで豊かになり、生活が成り立つ仕組みを作り上げたことで、今ではドイツの中で「最も住みたい街」として人気がある。日本の地方自治体でも是非取り組んで欲しい成功事例だ。

Day5ドイツ

フランクフルト

最終日のフ ランクフルト。金融の町でありドイツでも最も都会的な町としてエコとは縁遠いと思われる都市でもエコロジーが根付いている。30年前に、世界的にエコ建築が単なる脱近代化ではなく、これからの時代の建築として社会に認められたのが「ECO HOUSE」。

エコ建築家として有名なヨアヒム・エーブレ氏設計のこの建物は、省エネ性、社会的意義などで銀行に認められ、その融資で建てられた。そして15年後、如何にこの建築が理にかない、エネルギーを削減できる次世代の建築であるかを、実践で証明した。そんなエーブレ氏の幼稚園はエコだけではなく、建築デザインとしても優れており、園児達の元気で活発な笑顔が印象的であった。

幼稚園の園長さんが我々ツアー全員を前にして「あなた達建築家はこの幼稚園と同じように、社会を幸せにする力を持っているし、その義務がある。是非日本中に子供達の笑顔を作ってください」と建築がもつ社会への影響力の大きさを再確認。最後に古いレンガ倉庫のリノベーションで劇場に変えた、やはりこれもエコ建築家の現場を見学してツアーを締め括った。


 

パンフレットPDF

 

 

 

 Pictures 

 

ツアーコーディネーター TOUR COORDINATOR

Holger Konig ホルガー・ケーニッヒ

1951年ミュンヘン(ドイツ)に生まれる。ミュンヘン工科大学及び大学院で建築を学ぶ。1983年にエコロジー建材店や家具工房を設立後、設計事務所も主宰し、建築家、家具職人、建材流通の多様な経験を持ち、バウビオロギー・バウエコロジーを踏まえた住宅、幼稚園、学校を数多く手がける。
主な著書としてドイツでベストセラーとなった「健康な住まいへの道」(1985年初版・1997年第9版)があり、2000年に日本でも翻訳、出版される。1996年から2001年まで、自然建築材料の建築業者の集まりであるÖKO+ AGの取締役会の議長を務める。以降もそれまでの経験を生かしたさまざまなバウビオロギーや木造プロジェクトの管理や研究を任され、現在も活躍中。

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