今年で28回目となるエコバウ建築ツアー。ドイツ・オーストリア・スイスを訪れ、木材の循環利用と建築の最前線を視察しました。今年のテーマは「木の循環と建築」です。4日目のコラムをお送りいたします。 本コラムは、参加者である株式会社おりなす設計室 代表取締役 田渕一将様より寄稿いただいた内容を元にご報告致します。

この日からスイスでの視察が始まります。我々が最初に向かったのは、「OPENLY」という名の19世帯の集合住宅プロジェクトです。このプロジェクトは、建築業界の運用時（オペレーショナル・カーボン）だけでは無く建設時（エンボディド・カーボン）も含めてCO2排出量を減らすことを目指した先進的な取り組みのプロトタイプです。有機性の建材を用いることで建物全体でのCO2固定化を図っています。建物にCO2を貯蔵する、あるいは削減するアプローチとして、

①セメント・石油系建材を選択しない
②交通の便が良い場所を選定する
③建物形状をコンパクトにする
④長寿命化を図る

という取り組みを実現しています。

建築計画については、長期に使用できる可変性を重視していて、住戸→オフィスなど他用途への転用を考慮しています。窓サイズ・位置、住宅にしては高めの天井設定、露出させた配管類などにはそれを見越した法則性が存在しています。設備系統はすべてセンターコアに隣接させて可変性・拡張性を確保しています。構造について注目するポイントは、壁が木造ラーメン＋250mm相当の分厚いヘンプクリート(セメントと漆喰と麻の混合材)で構成されている点です。ヘンプクリートは2025年大阪万博のドイツパビリオンでも次世代の建材として紹介・採用されていました。ヘンプ(麻)は成長が早く、その過程で多くのCO2を吸収します。床については、蓄熱性能確保のため木床スラブに粘土を組み合わせて構成しています。耐火性能を要する階段室や地下室などの必要な箇所にはコンクリートも活用していますが、コンクリート内にバイオ炭を骨材として使用することで通常のコンクリート採用時よりもCO2削減を実践しています。

使用している建材は、植物などの自然由来のものが中心で、バウビオロギー的な観点からも優れた建築であると言えます。これらの取り組みの結果、従来の建物と比較して50％ものCO2を削減しています。また、当然ながら太陽光発電・蓄電池を備えるプラスエネルギー建築でもあり、見事に運用時＋建設時のCO2排出量を削減したプロジェクトでした。 日本より環境配慮が進む欧州の中でもさらに進んだ最先端事例のひとつを見ることができました。日本で同様の取り組みを展開する場合に、どのような設計・施工、そしてビジネスモデルで実現していくことができるか、考えてみたいと思います。

午後からはブルーマー・レーマン社へ。木材製材・プレカット・木造建築パネル＆ユニットの製作に加えてフリーフォームの流線形の木材加工を行える木造建築界のリーディングカンパニーです。坂茂をはじめ、ヘルツォーク＆ド・ムーロンなどの有名建築家たちとのコラボレーションでも知られ、その高い設計対応力と技術力は世界的に評価されています。

まずオフィスで会社概要の説明を受け、その後に広大な敷地を案内していただきました。製材所、プレカット工場、パネル・ユニット建築の生産ラインなどが同一敷地内に整備され、木が建材へ、建材がパネル・ユニットへと姿を変える全工程を一貫して担う体制が確立されています。敷地のスケールと生産の合理性には圧倒されるばかりでした。

さらに印象的だったのは、製材・加工で生じた残材を余すことなく活用する循環型の仕組みです。良質な端材はペレット燃料やバーク材に加工され、残った木片は発電用の燃料として使用されており、工場全体のエネルギー需要の約15％を自給しているそうです。資源を最後まで活かしきる同社の姿勢に、スイスの木造産業の成熟と環境意識の高さを強く感じました。