第17回 (2013)|エコバウ建築ツアー報告記
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イベント
コラム
エコバウ建築ツアー2013は、スイス・ドイツをめぐり、木造大型建築や環境に配慮した素材を使用したリノベーション物件などを視察しました。
歴史的建造物を取り壊し、建て直すのではなく“持続可能性”よりも強い意味を持つ“恒常的持続性”に重きをおき、半永久的に保つような建築を国全体で目指していました。
また、熱源のみならず、資材・建材においても資源エネルギーの節約を意識し、環境や未来の暮らしのためのリノベーションや設計が印象的でした。
「新建ハウジング」掲載記事も併せてお楽しみください。
・エネルギー節約について
・「Dauerhaft(ダウアハフト)」ー恒常的持続性耐久度
・歴史を残す
ツアーレポート
tour report
Day 1 スイス
チューリッヒについて
・スイスで最も大きい都市(人口約38万人)
・戦争で都市が壊滅後、ブロックをはじめ燃えない建材が広まった⇒シュバイン・シュタッド(石の町)と呼ばれる
・70年代以降自然回帰の機運が高まり、特に内装に木材の仕様が増える。
経済…金融から精密機器
社会…対立から協調
エコと精密機器との共存がテーマ。
区役所視察(警察署併設)
・1910年建築
・HAGA社が手掛けたリノベーション(2012年)
・文化財保護に指定され古い技術と100年前の素材やデザインを活かす
・次の100年を見据え2年かけて改修
・エネルギー節約断熱改修により灯油使用量が15ℓ/㎡ ⇒ 5ℓ/㎡
※既存50㎝の外壁に外側3㎝、内側5㎝のHAGA社付加断熱のBiotherm(ビオサーモ)を採用
・内外の仕上げはカルクウォール
ゼーバッハの古民家リノベーション
・500年前の住宅
・1999年にリノベーション
・付加断熱を追加しカルクウォールを塗布
・歴史的建築を後世に残すために美しさはそのままに快適性能を向上
サスティナブル、半永久といったものをより進めた考え方で、50年から100年後を具体的に見据えた仕様、造りにすること。
⇑木と漆喰
レストラン「レーヴェン」にて昼食
マイルズ教会(2010年リフォーム)
Tamedia社 坂茂 氏 設計
Day2 スイス・ドイツ
スイス観光(HAGA社案内)
ピラトゥス山からルッツェルン湖へ。
Zipse (ジプス)コルクの展示場を見学(ドイツ)
・床やドア、断熱材などコルクを一部原料に製造・販売
・床はコルク+パーティクルボード+プリント
・施工性と意匠性が高く、自然素材である事もPRポイント
80㎜の厚みで防火・防音で遮熱効果もあり、紫外線にも強い。
Day3 カールスルーエ近郊3か所視察(ドイツ)
カールスルーエ・・・ドイツで最も経済的に豊かな州で、シュトゥットガルトに次いで3番目に大きい都市。都市計画に基づき景観が守られ、新旧の建物がお互いを尊重し合うよう建てられている。
ヨーロッパ学校付属のこども園(2010年築)
移民、難民や亡命者などの子どもの教育を目的とするヨーロッパ学校。ここはその付 属こども園として3歳以下の児童を対象に、資格を持った2言語以上に精通した12名 のスタッフで40名の児童を預かっている。
市の福祉課職員で、幼稚園建設において教育現場と設計者の調整や、竣工後に問題が出れば改善するなどの業務を行なっている。(例:斜光パネルの設置・開放的すぎる障害児用トイレの窓にカーテンのとりつけなど)
子供目線のバリアフリー
バプテスト教会を視察
バプテストはプロテスタントの新教で運営は寄付のみでまかなわれている。教会建設に関わる労働力、費用のほとんどが信者の奉仕による(版築も自主施工)。
素材には、人工のものではなくエコ建材を採用。
旧陸軍病院(1903年築)
軍事利用による土壌・室内汚染などが50年以上経っても 残っており、建て直した方が簡単で安上がりであったが、歴史的建築であるため、リノベーションして残すことになった。2002年から2006年に渡る工事で現在は公共のベンチャー向けテナントオフィス、低所得者向け賃貸住宅と生まれ変わった。
Day4
18家族のためのコーポラティブ・マンション
ヨアヒム・エーブル設計事務所
【仕様】
・軽量断熱材・・・Ytong Multipor 300㎜ ※ポリウレタンは一切使わず
・窓・・・トリプル真空サッシ
・外壁塗装・・・カイム社の自然塗料
・バルコニー床・・・60㎜の真空断熱
・暖房・・・ペレットボイラーによる全棟暖房
・空調・・・地下熱利用
・気密のため不陸のない下地
身体障害者が住む一室を視察。内装はすべて障害者対応で共同部分の入り口ドアなども自動化されている。95㎡で東京都であれば、5,000万円~億を超える作りの住宅が補助金を活用し実費2,500万円程度で建てることができる。
パッシブハウス第一世代と新世代の考え方のギャップ。 ヨアヒム氏をはじめとする第一世代は非常に神経質な設計をし、ときに求められる施工精度に現場サイドが付いていけなくなってきている。また、『パーフェクトハウス』とうたっており、物件の高額化もあいまって施主の依存体質のエコ・エゴイスト※を生みだしてしまった。
(ケーニッヒ談)
※エコロジー・エゴイスト・・・現場協調路線を超えている人物。 理解が必要な素材を使うが、自然素材の性質を理解しないでクレームが出す人。少しの妥協も許さず、些細な事によるクレームが頻発する。
ソーラーデカトロンハウス視察
『ソーラーデカトロン』とは
大学チームがソーラーハウスの設計・建築を行ない、エネルギー性能や住まい方なども含めて多方面から審査する世界大会。コンテスト名はオリンピックの十種競技(デカトロン)と掛けている。
視察したシュトゥットガルト大学の作品は世界第3位。エネルギー使用に対する取り組みが評価。集熱機能付き高性能ユニットソーラー板に羊毛断熱材を使用。エネルギー収支や室内環境をモニタリングすることが可能。
住宅用改修物件を視察
築47年で2012年に2棟60世帯をバリアフリー及び断熱改修。
断熱・遮音・遮熱効果のある繊維・木質系プレートを外壁に取り付け暖房費が€200~300がゼロ。家賃は月€4.5/㎡から€5.6/㎡へ。
Day5
150年前の製粉所のリノベを視察
5年前にリノベーションを行なった物件。現在はオフィステナントと焙煎所、Cafe、託児所などが入る。建て直した方が安く済むが、受け継いだものを残したいというオーナーの意向から多目的に利用できる改修となった。
製粉所時代の水車小屋を利用して川からの水力で自家発電し6500個のシーリングライト分をまかない、余った分を売電している。
クランツベルクの真っ白な街並み
Day6
ドイツのホームセンターOBIを視察
製品に記載されている性能表示としてはエコテストマガジンの評価が多い。
住宅展示場を視察
60棟以上のモデルハウスが立ち並ぶ中、今ドイツで注目されているデザインや、家具・壁の色使い、サッシなどの基本性能の高さを目の当たりにする。
まとめ
・本物に触れるという事、考え方を受け継ぎ、負の遺産を残さない
・日本とドイツの違い・・・耐震や防火の問題、エネルギーに対しての数字的根拠
・自然素材製品の必要性・・・造り・デザイン・素材が後世へ受け継ぐ大切な要素
Pictures
ツアーコーディネーター TOUR COORDINATOR
Holger Konig ホルガー・ケーニッヒ
1951年ミュンヘン(ドイツ)に生まれる。ミュンヘン工科大学及び大学院で建築を学ぶ。1983年にエコロジー建材店や家具工房を設立後、設計事務所も主宰し、建築家、家具職人、建材流通の多様な経験を持ち、バウビオロギー・バウエコロジーを踏まえた住宅、幼稚園、学校を数多く手がける。
主な著書としてドイツでベストセラーとなった「健康な住まいへの道」(1985年初版・1997年第9版)があり、2000年に日本でも翻訳、出版される。1996年から2001年まで、自然建築材料の建築業者の集まりであるÖKO+ AGの取締役会の議長を務める。以降もそれまでの経験を生かしたさまざまなバウビオロギーや木造プロジェクトの管理や研究を任され、現在も活躍中。