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林材ライターコラム|答えは山にあるー第1回ー

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「答えは山にある」タイトル

林材ライター 赤堀楠雄さんのコラム「答えは山にある」 連載スタート

 

自然に寄り添う住まいを目指すなら、素材だけでなく生い立ちにも思いを馳せてみてはいかがでしょうか?

「自然素材の家づくり」に欠かせない木材を育む林業と、それを取り巻く環境や現状、人々の思いを伝えます。


森や木に関わることすべてを取材

私は林業や木材を専門に取材しているフリーライターです。1988年に大学を卒業してこの分野の業界新聞社に就職し、11年間務めた後に退社して独立しました。「林材ライター」という肩書は、かつて私が勤めていた新聞社が「林材新聞社」(2014年3月廃刊)という名であったことにちなんでいます。

 

「林材」とは林業と木材を合わせた業界用語で、川上から川下までのすべてを包含する意味合いで使われます。その言葉の通りに、森や木にまつわることなら、どんなことでも取材するというのが私の基本的なスタンスであり、多くの地域を訪ね、林業や木材の加工・流通、木造建築、木工品づくり、さらには林業が営まれている山間地域の暮らしや文化など、さまざまなことを取材してきました。

 

プライベートのことを少しお話しすると、東京で生まれ、都内や神奈川県で暮らしてきましたが、2010年に長野県上田市の山間集落に移住しました。そこには地縁も血縁もまったくなく、ほとんど飛び込むようにして引っ越してきたわけですが、幸い馴染むことができ、田んぼや畑もやりながら自然の中での暮らしを楽しんでいます。

 

自然を観察し、なすべきことを考える

森はとても多様です。その森をフィールドとして営まれる林業も多様で、答えはけっしてひとつではありません。高級材「木曽檜」ブランドで知られる長野県木曽地域にかつてあった木曾山林学校※1)の初代校長・松田力熊氏は、同校の校友会報に「林学は観察の学問である」と記しました。自然そのものである森をつぶさに観察し、何をなすべきかを考える。これこそが林業に従事する者の基本的な態度であるべきだと思います。

 

現在、林業をめぐる状況は厳しく、木を植えること、木を育てること、木を伐採して木材を生産することの多くが公的な補助金を活用して行われているのが実情です。そして補助金を活用するには当然、その要件に従う必要があります。

 

例えばスギやヒノキの人工林で間伐を行う場合、間伐率は30%以上、同じ森で次に間伐を行うまでには5年以上の期間を空けること、といった要件が定められています(これは一例。細かな要件は自治体によって異なります)。あるいは手入れ不足の森の場合、木々が混み合った状態を一気に解消するため、間伐率を40%あるいは50%とするような強度間伐が政策的に奨励される場合もあります。

 

ただし、こうした要件に従うことが最適かどうかは、現場によって判断が分かれるはずで、当然、要件にそぐわないケースも出てきます。ある自伐林家(所有林での作業を外注せず、自ら行う森林所有者)は「これがいいと自分が思うようなやり方ができなくなるので、補助金は使わない」と言い、補助金を一切使わずに自立した経営を行っています。この林家の場合は所有面積が必ずしも大きくなく、同じエリア内で毎年少しずつ間伐を行うことによって収入を得ているので、間伐率や時期の制約を受けると経営が成り立たなくなってしまうのです。

 

このように自らの経営方針や森の状況に即した最適な手法を選択するのが本来のあり方のはずですが、現実的には補助金に頼らざるを得ないケースも多々あり、そうなるとどうしても補助要件に従わなければならなくなります。その弊害として、定められた要件に即して作業することに慣れきってしまい、森の多様な状況を観察し、最適な方法を自ら考えようとする姿勢が失われてしまうことが心配されます。

※1 木曾山林学校 1901年設立。後に木曽山林高等学校、現木曽青峰高等学校森林環境科

「答えは山にある」タイトル

間伐本数をできるだけ少なくした現場。補助要件にただ従うだけではなく、どのような作業が最適かを現場で判断できる観察眼が求められる


全国一律の共通解などあり得ない

現在、日本の人工林は利用期に達した40~60年生の木が多くなっていて、その一方で、最近20~30年は新たな植林があまり行われてこなかったため、若い木々が極端に少なくなっています。このような人工林の状態を「少子高齢化」と表現し、資源がまんべんなく配置されるようにするためという理由で、高樹齢の木を伐採して利用し、伐採跡地に再植林を行うこと、すなわち「皆伐再造林」を進めることが全国的に奨励されています。あるいは、高樹齢の木は成長力が衰える、つまり、二酸化炭素の吸収固定能力が低下するため、温暖化防止の観点からも若い木に植え替えることが有効だとする意見もあります。

 

しかし、スギやヒノキ、あるいはやはり人工林の主要樹種であるカラマツも、生物として見れば樹齢が100年を超えてもまだ生命力は衰えずに生き続けるわけですし、そのことを思えば、40~60年程度で皆伐することが常に正しい選択になるとはとても思えません。

 

もちろん、地域によって事情は異なり、例えば南九州のような台風常襲地帯では、強風にさらされる影響で木々の樹高がそれほど伸びないケースがあることや風倒木被害のリスクがあること、さらには温暖な気候で成長が早いことなどを考えれば、他地域よりも若い樹齢で伐採し、利用することも当然ありうると思います。逆に東北地方などでよく見られるように、旺盛な樹高成長が期待できるエリアなら、長く大きく育ててから収穫するという戦略も有効でしょう。あるいは、経営方針による判断もあり、例えば、先ほど補助金に頼らない経営を実践している自伐林家の例を紹介しましたが、彼らのような個人経営の立場だと、再造林に費用をかけることは経営上のインパクトが大き過ぎるので、皆伐はせずに間伐を繰り返して収入を得ているケースが大半だと思います。

 

このように現場の事情はさまざまです。皆伐再造林を進めることが全国的に求められるなどということはけっしてありませんし、その森をどのように扱えばいいのかを決めるのには、やはり現地での観察を踏まえた判断が尊重されるべきだと思います。

自伐林家の多くは皆伐はせず、間伐を繰り返して収入を得ている


「低コスト」が目的になってはいけない

実は皆伐再造林を進めようという動きの背景には、国産材の需要が増加しているという事情もあります。この20年ほどの間に、国産材を利用する大型の製材工場や合板工場が全国各地で増加し、さらに木を燃やして発電を行う木質バイオマス発電所も各地で増加しています。それらのユーザーに木材を効率的かつ安定的に供給していくため、一度に多くの木材を生産できる皆伐が選択されているわけです。

 

ただ、困ったことに、伐った跡地で次の森づくりがどのように行われているかと言うと、伐りっぱなしで放置されるケースが後を絶たないという問題が各地で発生しています。その中には、自然に生えてくる広葉樹の森に誘導するのだという理屈がつけられているケースもあり、それが期待できる場合もあるとは思いますが、地表がササに覆われて芽が出なかったり、せっかく芽吹いた木々もシカなどの野生動物の食害にあったりと、芳しくない状況に陥っている例が少なくありません。

 

伐りっぱなしにする理由は、再び木を植えるには経費がかかるから、木を植えても面倒を見てくれる後継者がいないからなど、さまざまですが、やはり経費の問題が一番大きいでしょう。そこで再造林を進めるためにさまざまな補助制度が講じられ、なるべく費用が少なくて済むような手法も奨励されています。例えば、植え付け本数を少なくしたり、苗木の成長を阻害する草を刈り払う作業(下刈り)を省略、あるいは回数を減らしたりといったことがこれに当たります。

 

ただ、こうした手法についても、ややもすると目先のコストを減らすことばかりが目的になっていて、どのような森を育てていくかを考えることが二の次になっていると感じることがしばしばあります。例えば、植え付け本数を減らせば、それはその後の間伐で間引く対象が減ることにもなり、育つに従って形質が劣った木が多くなった場合、それらを間引いて全体の品質を調整することができなくなる可能性があります。

 

コストを下げることはもちろん必要ですが、それが単なる手抜きになって、ろくな木が育たないというようなことになれば、本末転倒だと言わなければなりません。そんな事態に陥るケースが増えるのだとしたら、無理に皆伐を進める必要はなく、間伐を繰り返して木を大きく育てていくという道を選ぶことも有効な戦略だと思います。要するに答えはひとつではないのです。

下刈りを省略したことで草に巻き付かれ、幹がS字型に曲がってしまった幼木

ヒノキの苗木

野兎によって穂先が切り飛ばされてしまったヒノキの苗木。下刈りをする際に一部の草を残したため、野兎が繁殖し、被害が発生したとみられる


豊かな森を育む林業になってほしい

現場に足を運んで森の状態を観察することを大切にし、多様性のある豊かな森を育む林業であってほしい。そんな思いを込めて、このコーナーのタイトルを「答えは山にある」としました。多様な森からは多様な木材が生産され、それらをよりよく生かす技も観察によって育まれてきました。取材を通じて感じてきた森や木の魅力を少しでもお伝えしたいと思います。

 

 

著者プロフィール

 赤堀楠雄さんプロフィール写真

林材ライター 赤堀楠雄(あかほり・くすお)

1963年生まれ、東京都出身。林業・木材産業専門新聞社勤務を経て、1999年からフリー記者として、森林・林業・木材・木造住宅などに関する取材・記事執筆に従事している。2010年から長野県上田市在住。 著書に「林ヲ営ム~木の価値を高める技術を経営~」(農文協)、「図解入門 よくわかる最新木材のきほんと用途」(秀和システム)、「変わる住宅建築と国産材流通」(全国林業改良普及協会)、「基礎から学ぶ森と人の暮らし」(農文協、共著)、「有利な採材・仕分け実践ガイド」(全国林業改良普及協会、編著)などがある。

 

コラムNo.2

 

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