第16回 (2012)|エコバウ建築ツアー報告記
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イベント
コラム
エコバウ建築ツアー2012は、ドイツ・オー ストリア・スイスの最先端建築をめぐりました。
木造建築の見直しが進む西ヨーロッパでは、リノベーション、新築ともに木質プレハブ工法や3層窓の採用などでコストダウンや省エネを図っていました。
改めて、木造建築のメリットや、人に安らぎや快適性をもたらす木の効能について学ぶことができました。
「新建ハウジング」掲載記事も併せてお楽しみください。
・木造建築の再生、活用
・木質プレハブ工法の推進
・住宅資産価値を上げるエコロジー建築
ツアーレポート
tour report
Day 1 ドイツ
ミュンヘン工科大学にて視察先の紹介。
ケーニッヒ氏によると、建物で重要なポイントは
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- 持続可能な建物か
- オリジナルまたは地元で採れる素材を使っているか
- 環境に優しい素材・建物になっているか
以上3点を重視しているとのこと。
3.11の東日本大震災以降、ドイツでも原発について再度見直しが行われ、その中で再生可能エネルギーが注目されているとのこと。
その後、ミュンヘン市内に建つミュージアムを訪問。世界最古の部類に入るアルテ・ピナコテークやヨーロッパ最大規模の現代美術館ピナコテーク・デア・モデルネを見学。あいにく、月曜日はドイツの美術館は休館日のため全て外観のみの視察。
アルテ・ピナコテーク
1836年に開館した美術館。第2次世界大戦で多大な被害を受けるも1957年に再建される。しかし全体を補修するのではなく、被害を受けた部分のみを煉瓦で修復している。理由としては、戦後ドイツは経済的に余裕がなかったこと、戦争の傷跡をあえて残す為に部分的な修復をした。
ブランドホルスト博物館
2005年~2008年にかけて建設された博物館。個人 所有のコレクションを展示しており、博物館自体も個人の寄付金によって建設された。
ピナコテーク・デア・モデルネ
主に近代美術を展示している美術館。絵画だけではなく建築やデザイン等の異分野の作品も収蔵されている。
木造アパート視察
現在ドイツの建築需要は、新築1%:再開発(リフォーム)99%という比率。
公共物件の場合、下請け業者を選ぶ基準として見積もりの際の価格はもちろんだが、それ 以上にいかに環境に優しいかが重視される。当物件は1950年に建設され2012年に改築されたばかりだが、断熱材を30㎝~40㎝使用し、ガラスは3層ガラスを仕様(日本では2層式)。ガラスの中には一層ごとにガスを注入している。(日本の場合は真空)。
これによって1年の半分以上を暖房器具に頼っていたところ3カ月程稼働するのみで、電気代も削減できたとのこと。
Day 2 ドイツ
有機農場・シュタイナー幼稚園視察
シュタイナーの哲学を取り入れた農園。有機栽培・無農薬栽培・環境を配慮した農場。「良質な土壌・綺麗な水・新鮮な空気」が自分たちの生活の土台であるとしている。畑の一角に一列だけ花を植えられている場所があり、理由として花に集まる虫を使って野菜の受粉を行ない、その虫によって他の害虫を駆除するのが狙い。
有機農場で栽培された野菜は「良い物である」いうイメージは強いものの、輸入物やスーパーで売っている野菜に比べると高価格のため、ドイツでも主に富裕層が購入しているとのこと。
シュタイナースクール訪問
12年間一貫教育を基本とし、子供たちの感情・知性・自我の表現能力やニーズを考慮しながら、それぞれの発達段階に合わせてカリキュラムが組まれている。ドイツでは学歴において、「どこの大学を出たか」よりも「なんのプロフェッショナルになったか」が重視される。
シュタイナー・キンダーガーデン 訪問
シュタイナーの「人間は精神・魂・肉体の3 つの部分からなる存在」とする人間観に基づいたカリキュラムで一日のリズムを決めている。想像力を働かせる為に、子供たちに与えるオモチャは流木や布切れ、積み木といった遊び方が決められていないものを置いている。
集合住宅訪問
空港だった敷地を再利用し集合住宅に建て替えた事例。その中でも、木造の集合住宅を視察。木造といっても全てが無垢材ではなく集成材も採用している。両者を比べると無垢の方がエコだが、自然乾燥にかかる時間、場所等を考えると最終的には集成材の方がエコになるとのこと。
ユースセンター訪問
ドイツは大半が共働きで、離婚率が高いということもあり、学校から帰っても親が家にいない子供たちが立ち寄る場所として存在。その他に地域のイベント等にも使用される日本の公民館の様なもの。窓に格子を設けて陽の入り方を調節し、外には落葉樹を植えることで夏は陽射しを遮り、冬は陽が建物に入るよう植栽にも意識を向けられているパッシブハウス。
Day 3 ドイツ
バウフリッツ社訪問
バウフリッツ社は何世代にも渡り「健康と環境に配慮した建築」を経営方針の中核理念としてきた木造建築会社。年間160棟施工・年商60億の実績。
自社でプレカット工場を所有し、プレハブ工法を取り入れ、ほとんどの部材が工場内で事前に作られている。加工の際に出るおが屑は断熱材としても使用し、社員も持ち帰り暖炉に使用することもあるとのこと。
障害者福祉作業所訪問
7年前に建設され、今では健常者・障害者併せて140人が働く施設。光・風通し・熱源を有効活用することで、運営費・メンテナンス費用の軽減に貢献している。外の光を室内全体に届かせるよう、窓には磨りガラスを用い、倉庫内は天井から日光を取り入れるよう設計し、電気を点灯せずとも明るくなる。当日、雨が降っていて外はかなり寒かったが、内部は半袖でも快適な温度であった。
世界初8階建ハイブリッドビル建設現場訪問
「LCT ONE」(オフィスビル)
設計:ヘルマン・カウフマン設計事務所
高さ:21.5m
構造:木造・RC造ハイブリッド
木造建築では世界で初めての高さ(8階建)のオフィスビルが完成を目前に控えていた。ここでも省エネのための断熱材と3層ガラス窓の採用が標準であった。
Day 4 オーストリア
リハーサル施設訪問
地元の交響楽団の練習用の施設で、一階にはベーカリー&カフェが併設する。市の要望を受けて建設。当初市からは3階建ての依頼があったが、景観を損ねるという理由から地下に1階を設け地上からは2階建てにした。地元の無垢材を使用した外観は季節に合わせ、採光と遮光の機能を兼ね備えたデザインになっている。
スイス漆喰施工のワインセラー訪問
HAGA社スタッフも同席。ワインの保管・品質管理に、いかに漆喰との相性(調湿性)が良いかをPR。
多目的公共施設訪問
店舗・郵便局・図書館・役場・託児所を1ヶ所に集約した公共施設。この地域では教会や学校・役場が互いに離れておりこれまで地域住民の交流がなかったが、当物件が建築されてからその問題も解消された。建築コストは€600万。コストとしては市が相見積を取った際、この設計が競合他社より1.9%高かったものの、“エコロジー”と言う点で評価され採用に至った。国からの補助金が€160万、その他にもテナントの賃料で収益を得ている。
スイス カツィス訪問
プロテスタント教会
外壁はHAGA社のモルタルで、内装はカルクウォール仕様。
内装の施工は、日本の左官職人により細部に至るまで丁寧に仕上げられている。
Day 5
HAGA社 トーマス・ビューラー氏の案内で観光を兼ねた物件視察。
ロープーウェイに乗り教会を視察、その 後カルクウォール施工物件にてランチ。
イタリアミラノ訪問
50年前に創られた人口約2,000人の街を訪問。教会を町の中心とし、近くに学校や他の建物も建築される。同じヨーロッパでもイタリアはエコロジーに関しての意識が低く、街の至る所でゴミや落書きが見られる。今回日本から大勢の人が来るということが初めてで町長も駆けつけて出迎えて下さった。
ケーニッヒ氏による総括
点のエコロジーではなく面のエコロジーが重要。全体を俯瞰してエコロジーを取り入れる必要があることを事例をもとに参加者に伝えて下さった。
「哲学」「思想」といったところが大きく、「エコロジーとは何か?」その答えは、地球環境やコストだけではなく、「後の世代の為の思い遣り」なんだということを教わった。また、住宅の資産価値を上げるためには、自然素材が切っても切れないモノであるということをヨーロッパの建築や文化に触れ改めて実感したツアーとなった。
Pictures
ツアーコーディネーター TOUR COORDINATOR
Holger Konig ホルガー・ケーニッヒ
1951年ミュンヘン(ドイツ)に生まれる。ミュンヘン工科大学及び大学院で建築を学ぶ。1983年にエコロジー建材店や家具工房を設立後、設計事務所も主宰し、建築家、家具職人、建材流通の多様な経験を持ち、バウビオロギー・バウエコロジーを踏まえた住宅、幼稚園、学校を数多く手がける。
主な著書としてドイツでベストセラーとなった「健康な住まいへの道」(1985年初版・1997年第9版)があり、2000年に日本でも翻訳、出版される。1996年から2001年まで、自然建築材料の建築業者の集まりであるÖKO+ AGの取締役会の議長を務める。以降もそれまでの経験を生かしたさまざまなバウビオロギーや木造プロジェクトの管理や研究を任され、現在も活躍中。