第20回 (2016)【後編】|エコバウ建築ツアー報告記
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イベント
コラム
エコバウ建築ツアー2016報告記【後編】では、4日目〜6日目をご紹介します。
旅の後半は、引き続きドイツ・ベルリンとデッサウにて学校や環境省に再生エネルギーセンターなどを訪れ、最終日にはバウハウス視察を行いました。
前編はコチラから>>エコバウ建築ツアー報告記|第20回 (2016)【前編】
ツアー詳細は、 ツアーレポートからぜひご覧ください。
・持続可能性のある建築
・人の多様化・暮らし方の価値観の変化
・設計・素材へのチャレンジ
・自然との共生
「新建ハウジングプラスワン vol.741」2016 11月発刊
ツアーレポート
tour report
Day 4
ベルリンでの視察
ドイツ建設環境省視察(ドイツ最先端のシンボル的エコロジー建築)
ニコラス・ケージ氏講演「サスティナブル開発について」BNB認定基準責任者
持続性環境順応計画
基準が細か厳しく様々な承認を取るには各機関の連携・承認が必要※その際の評価者のひとりがケーニッヒ氏「長い道のりであっても近道せずに」。2050年を目処にCO2排出80〜95%に抑えることを目標としている。戦後、国土の拡大はないので土地を限られた資源と考え効率よく有効活用を考えているor再利用の予定。
・連邦
・市町村
・民間
健康健全な室内環境を作ることがテーマ⇒そのために「持続性建築」「その認可と評価の基準」
「その専門家の育成」「新築・改築に対する評価判断」⇒育成といえども仲間という意識!
ニコラス氏が考える日本の現状と課題
1、日本はエネルギーの消費国(お湯を作ることへのエネルギーが多い)
2、1人当たりの居住面積が小さいことも課題(土地の有効活用が必要)
Ex.ドイツは1人当たり60㎡強、日本はその半分以下
3、土地の有効活用と熱源をどう取得するかが課題となる
⇒このような意味では、ドイツは原発の廃止もあり、日本より3歩程進んでいる現状が参考になる
※ニコラス氏らの取り組みは、比較的大きな事業。
日本は新築戸建てが多く建つ分、小さい事業だが取り組むことの根本は同じなので、地球に優しい方向に進むことを願いたい。
ケーニッヒ氏より〜車中〜
パッシブハウス基準とBNB基準の違い
パッシブハウス基準とは
①一次エネルギー削減が目的(ファイト教授の個人的基準)
②1980年当時10cm程度の断熱材の厚みを30–40cm必要と提唱
③暖房エネルギー15kw/㎡以下に抑える
④1980年当時初めての客観性ある省エネ理論
BNB基準とは
①ドイツ環境省開発2006年よりスタート
②省エネだけでなく快適性、環境性、自然素材など多面的にエコロジーを検証
③持続性をゴールとする
エコロジー建築とは
持続性で証明される
①耐久性の高い住宅
②100年後でも住みたいデザイン
③100年後でも快適な性能
省エネ性はほんのその一部
エーベルスヴァルデ・オフィスビル
行政管区(行政府)として使用するオフィスビル
1945年ドイツ軍が侵略される前にこの地域を爆破し、荒廃地区に2004年に国の入札にて落札し2007年に着工。
(床総面積17,000㎡、総工費2,500万€)
◯入札に当たっての条件
・全ての素材が持続的に使用できるものであること
・防汚性、防音性など機能性に優れていること
・個々の建物が分かれている物の、連携ができ、将来いかなる用途にも対応できるようにする多目的建築であること
◯落札できた理由
・自然素材に特化した仕上げ材であること→CTL材とガラス、鉄
・予算に対するかかる費用でなく、建材等提案の中身を見てくれた
※従来の建材に比べ、自然素材はコスト25%アップ
※防汚性と吸音性に優れており、補修箇所もわかりづらい
安価で導入できるエコロジー建材
エーベルスヴァルデ大学
3人の建築事務所で学食とセミナールーム棟を設計。
テーマは「森との調和」
〜森の中の学校〜
【設計の要素】
1、個性ある建物であること
2、環境に適用すること
3、ローテクコンセプト(フレキシビリティー)
4、自然素材を使うこと(環境順応)⇒生きてる建物
森と共存できる持続可能な建物が求められた
例)構造柱を真っすぐにせずに強度を保つ→自然の木は真っすぐではない
「森の中から森を見る」
窓ガラスは特殊ガラスで「森の緑」が映り込み森と一体化する外観
再生エネルギーセンター(ゼロエミッション建築)
案内:ローター・クルーガー氏
再生エネルギーセンターの脇にあるドイツの森にある典型的な例(住居用ではない)
ヘルマン・シーア館
2013年にポーランドの仲間とクルーガー氏が基金からの助成金を使い建築⇒自然の中で文化を感じてもらうため
案内:ヘルマン・シーア氏
産業革命時代から環境汚染について言及していたノーベル賞等も受賞したことのある人物
この建物も汚染物質0をテーマにしており、太陽光や地中熱を活用したエコ建築
半地下〜3Fの構造で壁・天井は主にOSB(Oriented Strand Boad)合板+テルモウッズという木質断熱
床面積:1,100㎡で総工費190万€
エネルギーポンプを採用しており地熱エネルギーボックスを地下に5つ500mと浅い場所に埋めているのは地上の輻射熱と地下の地熱の両方を活用して、効率的に熱エネルギーを取得するため汚染物質を維持・貯蓄しないこと。
持続可能な建築+再生エネルギーがテーマ
排出量ゼロの建物
廃棄物処理の民間会社
廃棄物を埋め、発生するガスを活用してエネルギー取得を行える会社で有り、2011年にGAP社の設計にて建設した建物では年間66,000kw(太陽光)を発電するので、実質エネルギー排出が0の建物になっている。
内装は安価でエコに抑えられている壁は塗装仕上げとOSBでの仕上げ2Fのセミナー室からはゴミで出来た山が見渡せる⇒この負の遺産をなくせるためにできることをと意識付けさせる。
建物の寿命が終わる時に、ゴミを負の遺産にするのか、それとも財産にするのか…
持続可能性というテーマが違った視点で感じられる場所また、視察の中で印象に残ったのは、15:30過ぎに到着した時点で社員さんが次々と帰宅していく様子を見て、参加者の皆様が非常に驚かれていた。
ドイツと日本とのライフスタイルの違いを感じた瞬間。
Day 5
連邦環境省研究所 (BNB金賞Haus2019)
ベルリン環境機構優秀賞、EMAS環境マネジメント最優秀賞
ドイツに3つある環境省のうちのひとつで主に上下水道や自然界の水に関わる研究を行なっている場所に経つモデル。ヨーロッパの環境順応基準は年々厳しくなっておりそのリーダー的存在がドイツ⇒2019年レベルの建築をと2011年に着工し2013年に完成。
240㎡(建物サイズ25.25.8)で、480万€
屋上は太陽光と緑化の両立。無塗装の木のファサードで構造は鉄筋コンクリート。
断熱材はセルロースでU値0.08(天井)、0.1(壁)(国の規程はU値が天井0.2、壁0.2)
また、建材の選択について…建材を作る際にかかるエネルギー量や、運送にかかるエネルギー量までも意識⇒現地調達することも大切である。
太陽光による年間の発電量はなんと90,000kw/年。それに対して使用量は30,000kw(敷地内の他の研究にも使用)室内の空気の汚染度についても計測を自動でしており空調も自動制御で21℃(側面)設定。
※TVOCの測定:OSBの糊も安全と言われるがホルムアルデヒトがでるのが現状
サッシは4重サッシ、室内の換気は床や天井に設置し湿度のコントロールはしていないが、30〜50%を維持。扉に小窓をつけて社内連絡も電気を使わず、人が動いて省エネを行っている。(ひとりひとりの意識)
また、ストレスフリーな服装での仕事や、会議に集まり移動する(出張)ことでエネルギー消費が発生するためモニターにより会議を実施。
集合住宅視察
ケーニッヒ氏設計の集合住宅
ドイツの居住地域としては最古の場所⇒東西分裂時に廃退。
貴重な砂岩の建築を残そうとこのエリアの復興が始まり15年前には今の姿に…。
その中にケーニッヒ氏設計の集合住宅もあった。
文化財指定の集合住宅視察
1878年建築の集合住宅で内外装仕上げは漆喰塗料窓は当時のシングルガラスのサッシを2重にしたもので当時の状態を再現したいとの想いでリノベーション。
1F天井には、めくると1913年頃の天井が残っており、それをそのまま復旧させ使用している今のアパートは間口7㎡、キッチン8㎡、子供部屋12㎡と決まりきっているが、21世紀に入り個性を重要視するようになり様々な要望からDIYまで普及。
漆喰はイタリア産のものだが、当時使用していた物を探すのは難しく、その他の部材もこれに近いだろうというものを採用しているそう。
リノベーション物件
文化財的建築でベルリン市当局とデザイン変更を提案→際立つデザイン性
カルクファサード1.0mm無着色
施工方法:シャブローネ仕上げ
下地:ビオサーモモルタル(断熱モルタル)
修復された事務所付き一戸建て物件
エネルギー消費の非常に少ないリノベーションのモデルプロジェクト。重要文化財に指定されている。断熱は木繊維とセルロースの断熱。分離換気システムと太陽熱を利用した温水パネル。
Day 6
エネルギープラスの小学校
インゴ・ルツケマイヤー氏
ベルリン北部に位置するホーエンノイエンドルフのドイツ初のプラスエネルギー建築の小学校2011年に完成し、2階建て3棟、延べ床面積7,414㎡。目的は通常の新しい建築と比較してコストを上げることなくプラスエネルギーで持続可能的な環境順応建築を実現することとして建築された。
自治体の運営コストを上げないということが命題でこのプランが採択されたそう
「子どもたちへの無言のメッセージ」
資源は有限であることと、人がエネルギーが必要なように建物にも同じことが言えるということ。そして環境に順応することの大切さを体感し身に付けてもらうことが根底のテーマ。ドイツは平均出生率が1.2人と低く、家庭環境の問題も多くある中で、子どもの自発的な成長を促すための工夫が設けられている。
ドイツ環境省のNachhaltigesBauenの認定
校内は、採光と通風を考え日本と違いとてもオープンな開講を取っている。教室内は採光だけでなく遮光も考え電動でブラインドの上げ下げができる。また、ボイラー室で100%ペレットでの熱交換と全館空調にて空調管理をしている。
食堂兼ホールも大開口で、特殊なガラス。エレクトロクロームガラスという人工知能のついた光の取得量を自動調整するガラス。(木製サッシにトリプルガラス)
床は、haus2019と同じ廃材のリサイクル木床。体育館も採光と遮光を考え北面を除く曇りガラスで天井には温熱パネルと空調管が通っている。
北東角にはガラス面を用意し採光と緑を感じられる。また壁の仕上げ材は漆喰塗料を採用。
プラスエネルギー集合住宅
2014年完成のプラスエネルギー集合住宅
太陽光と風力発電にてプラスエネルギー化。総工費は300万€のうち、1/3は投資銀行から融資。あとは住民の自己資金や投資や借り入れで賄う。また、住民で共同の有限会社を立ち上げ会社所有にし税金対策を行いながら16世帯にて運営。
残りの2世帯は共同スペースとして活用。エネルギーロス率は0.1%と低く、春夏秋は熱交換と換気のみ冬はペレットでの給湯と暖房。また、集合相互扶助住宅のため隣の家との断熱や遮音はなく、あくまで外と中とで区切り、その断熱はセルロース床は、このツアーでよく見た廃材のリサイクルの木床。ローコストで流通しているよう。
また、地下室はコストが上がるため設けず天井裏に設備を用意。ペレットを燃やす機械や、熱交換器。半地下には雨水の貯蔵と汚水の貯蔵タンクを用意し、どちらも浄化して再使用をしている。(その際の熱も再利用)
バルコニー部分は、鉄製で雨水の影響を受けないように下の階の天井に金具で留められている。壁面とバルコニーをつけないことでバルコニー=雨どいという扱いで外壁が雨水や熱の影響を受けないようにしている。参加者みなさんが関心を寄せていた部分。
ベルリン植物園
デッサウ環境省
2008年完成のエコ建築:環境建築として木を表しにしているが全体の10%程。太陽光や自動換気システム採用元駅舎部分のレンガのファサードの水切りは特徴的。
バウハウス視察(モダンデザインの聖地&世界遺産)
1925年〜1933年の間のみ運営されたバウハウスデッサウ校
設計と初代校長はヴァルター・グロピウス氏
2代目校長のマイヤー氏が共産主義であったため、ナチスからの圧力がありそのまま閉校へと追いやられ教員達は欧米諸国へ散りぢりに1996年に世界文化遺産に登録。
バウハウスでは色使いが少ないようなイメージがあるが実は、色彩を非常に重視している。当時、鉄、ガラス、漆喰を組み合わせた建築は革新的で、無駄を省いたデザインは今日のモダンデザインの基礎となった。
ー「Less is more」ミース・ファン・デル・ローエ
バウハウスの教員宿舎がマイスターハウス。デッサウ校のすぐ近くに建ち、元々4棟あったマイスターハウスは第二次世界大戦でグロピウス邸が破壊され3棟が残っている。バウハウスの校舎と同様に、ガラス面を大きく取ったファサードが特徴。このマイスターハウスも世界遺産の関連施設になっている。
コンクリートブロックの上に漆喰塗料の仕上げや、壁の仕上げの一部は漆喰のコテ抑えとラフのヘッドカットしたパターンでうっすらとデザインを入れている。
Pictures
ツアーコーディネーター TOUR COORDINATOR
Holger Konig ホルガー・ケーニッヒ
1951年ミュンヘン(ドイツ)に生まれる。ミュンヘン工科大学及び大学院で建築を学ぶ。
1983年にエコロジー建材店や家具工房を設立後、設計事務所も主宰し、建築家、家具職人、建材流通の多様な経験を持ち、バウビオロギー・バウエコロジーを踏まえた住宅、幼稚園、学校を数多く手がける。
主な著書としてドイツでベストセラーとなった「健康な住まいへの道」(1985年初版・1997年第9版)があり、2000年に日本でも翻訳、出版される。1996年から2001年まで、自然建築材料の建築業者の集まりであるÖKO+ AGの取締役会の議長を務める。以降もそれまでの経験を生かしたさまざまなバウビオロギーや木造プロジェクトの管理や研究を任され、現在も活躍中。