とうほく走り描き‖第66回 『顔が見える距離感で設計 』
-
コラム
第66回『顔が見える距離感で設計 』
渡部 良平さん(渡部環境設計事務所)
「マラソン」と「ピクニック」を合わせて「マラニック」という造語が ある。自然豊かな田舎道や、観光地の名所・旧跡、ときにはグルメやスウィーツを味わいながら気ままに走る。コースが設定されている大会もあるが、仲間同志で行き当たりばったりと走るのも心地よい。
今年、青森県十和田市で、中古住宅をリノベーションして事務所をオープンした渡部環境設計事務所・渡部良平さん。自宅も兼ねていて、居住スペースの壁はリボス自然健康塗料の水性塗料「デュブロン」をDIYで塗っていただいた。東京都多摩市の出身で、設計のキャリアも都内の設計事務所で積み重ねてきた。青森との縁は、事務所も共同で主宰するパートナーのご実家(青森県野辺地町)の設計・建築から。その際CM※を担当した地元の建築家に、青森は「設計事務所も少ないし、移ってきては?」と。それほど強い誘いではなかったが、十分なきっかけとなった。東京から離れての不安を尋ねると、設計の仕事は「どこでやっても、あまり変わらないと思った」と、気負いがない。事務所に併設のギャラリーも、その構想は「この建物の改装を決めてから」と、力みがない。
かわるがわる企画される展示は、移住後に町歩きする中で知り合ったアート作家たちの作品だ。住宅・店舗・事務所など設計のオファーを近隣からコンスタントに得ている渡部さん。SNS経由ではない、住民が顔の見える距離感にあり「ひとつひとつの出会いや振る舞いを丁寧に積み重ねる」ことの大切さを感じるという。今後は、県産木材の活用にも積極的に取り組みたいと、ギャラリーの床は青森県産の杉材。足場板のようにグレーになっていく経年変化も楽しみと話す。設計の仕事はひとつひとつが形になって、土地土地にプロットされていく。将来、渡部さんの足跡を巡るマラニックができたら楽しそうだ。
※CMはコンストラクションマネジメント
〈筆者プロフィール〉
中島信哉:株式会社イケダコーポレーションの営業として、
現在は東北6県と北海道を担当。仕事のかたわら始めた
サインペン画やマラソンが話題に。
【2019年12月 北海道住宅新聞掲載】