とうほく走り描き‖第72回 『数寄屋に魅せられ50余年』
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コラム
第72回『数寄屋に魅せられ50余年 』
片山鶴衞さん・大作さん(東建設)
私がマラソンを始めたのは、43歳のとき。子供の頃から短距離走は苦手、今も激しいスポーツには縁がないが、ラン友の存在にも助けられ、無理をせずに続けたおかげで「速く」走れないが「長く」走れる体にはな ったと思う。
工務店経営の世界で、本当に「長く」走り続けているのが、仙台市の東建設㈱・片山鶴衞さん。前身の片山工務店を創業してから50年以上の歴史がある。当初は、ハウスメーカーの仕事もあったが、オイルショックを契機に下請からの脱却を決断。思い切った方向転換だっただろう。
その頃、人との縁から「数寄屋」と出合った片山さん。息子の大作さんがまだ幼かった頃、仙台と京都を新幹線で往復しながら、数寄屋を濃密に学ぶ期間を過ごした。日本庭園への造形も深め、今では東北で数少ない本格的な日本建築ができる工務店として知る人ぞ知る存在だ。
毎年数棟、大工の技を活かした趣のある住宅も建て続けている。和漆喰とは違った表情の柔らかさが「丁度良い」と、スイス漆喰もご採用いただいている。寺社も手がけるが、「社寺建築と数寄屋とは違う」という。数寄屋の軽快さは、むしろ現代住宅に通じるのかもしれない。
息子の大作さんも大工となり、現在は社長として会社をまとめる。茶道が趣味でいつか「茶室をつくってみたい」と話す。会社敷地内の倉庫には「どんな注文にも対応できる」木材が長い月日をかけて大量にストックされていて「使うのに、30~40年かかるかも」と大作さん。
常に「変化」を求められる時代だが、長く続けるには「変わらない」何かが必要なのかもしれない。会長お気に入りのオーディオセットは真空管アンプ。変わらぬ音も一度聴かせてもらおうと思う。
〈筆者プロフィール〉
中島信哉:株式会社イケダコーポレーションの営業として、
現在は東北6県と北海道を担当。仕事のかたわら始めた
サインペン画やマラソンが話題に。
【2020年6月 北海道住宅新聞掲載】