とうほく走り描き‖第2回 『先駆けのDNA』
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コラム
第2回 『10年続く「マイスタープロジェクト」』
吉田 裕一さん (吉田建築研究所)
普段のマラソン練習は、片道7kmの通勤ランが中心である。もちろんそれだけでは足りないので、土日には少し長い距離を走りたい。お客様の内覧会などのイベントがあると練習の良いきっかけになるので、走って見学にうかがうこともしばしばある。「走ってきました」と言って顔を出すと、自然と会話も盛り上がり営業効果もあり。走る営業マンの真骨頂といったところだ。
100kmマラソン完走から一週間、この日も(有)吉田建築研究所が設計した住宅兼店舗の内覧会があり、片道12 ~ 13kmの道のりをゆっくりと走ってみた。半分以上は、歩いたかもしれない。長い距離を「歩く」のも良い練習になる。左右の体のバランスを考えて、まっすぐ少し大股で歩くことで、ランニングのフォームを整える効果があるようだ。
会場に着くと、吉田先生の愛車ランチア・デルタが停まっている。他のブランドにはない、「どこかにありそうでいて、誰の真似でもない。ほのかに醸し出される軽快なデザインに魅かれる」とのこと。住宅設計にももちろん通じるところがあり、まわりに流されず独自性を貫くという意味で「あえて孤塁を踏む」という言い方をされていたが、デザインポリシーを強く持ちながら、仰々しくない、威圧感のない仕事ぶりにファンも多く、わたしもその一人である。
吉田先生の仕事を特徴づける活動に「マイスタープロジェクト」がある。2004年にスタートし、技術に特色のある地元の専門工事業者やメーカーと協力し、元請制度と完全分離発注の中間のようなスタイルの取り組みで、弊社も参加している。毎年確実に実績を重ね、今回の建物で32件目のプロジェクトになる。今回は、公共物件などでも実績のある「(株)シェルター」のKES工法による躯体、柔らかな曲線のアイアンの階段手すりにほどこされた、「郷自然工房」の漆塗り、「(株)ホルツ」によるオリジナルキッチンなどがマイスターたちの仕事だ。
弊社の天然スイス漆喰スイスウォールも、正面外壁に採用いただいた。マラソンの練習にウルトラCはなく、日々コツコツと少しずつ工夫をして走ることで走力がついてくると思っている。マイスタープロジェクトの活動も10年。目を見張るような派手さはないが日々の仕事の積み重ねが、32件のデザインの結晶となって、仙台の街を彩っている。
〈筆者プロフィール〉
中島信哉:株式会社イケダコーポレーションの営業として、
現在は東北6県と北海道を担当。仕事のかたわら始めた
サインペン画やマラソンが話題に。
【2014年8月 北海道住宅新聞掲載】