とうほく走り描き‖第36回 『建築から農へ、農から建築へ』
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コラム
第36回 『建築から農へ、農から建築へ』
安達 揚一さん(株式会社SPAZIO建築設計事務所)
株式会社SPAZIO建築設計事務所の安達揚一さんは、仙台市内の農家の出身で、今も米作りを営む生家のとなりに事務所を構える。住宅・店舗、新築・改修とも近隣の案件が驚くほど多く、まさに地域密着。
東北で初めて外壁に天然スイス漆喰を施工、無垢床をリボス自然健康塗料で仕上げた地区集会所も、事務所から数十メートルの距離だ。ちなみにリボス社は、木材保護塗料の主原料の亜麻を契約農場で有機栽培しており「農」と関わりが深い。休みなく働く両親を見ながら「農家には、なりたくない」と思っていたという安達さんだが、やがて少しずつ農業の奥深さを意識するようになり、今年はついにJA(農協)の正会員となった。「JIA(日本建築家協会)とJA、両方の正会員という建築家は、安達さんだけでは?」と尋ねると、にっこり笑い「建築設計は、1年に何件でも取り組めるが、農業は1年に1回だから、厳しい世界」と穏やかに語る。
人の健康を考えると、やはり基本となるのは「食」。そしてその身(からだ)を置く場所としての「建築」。両方に携わることであらためて考えること、感じることが安達さんにはあるようだ。「建築」と「農業」の共通点を、安達さんは「耕す」と表現する。建物を使う人の生活が、生き生きと芽を出し花が咲くように「環境」を整える仕事が、建築設計だというイメージだ。5月は「仙台国際ハーフマラソン」を沿道からの応援。例年初夏の日射しが参加者を悩ますが、今年は雨中のレースとなった。雨に濡れるのもランナーには、自然なこと、悪いコンディションではない。熱中症のリスクも少なく、快走したラン友が多かった。
農作物にとっても「恵みの雨」。ビニールハウスのような管理農業を否定しないが、日々自然とうまくつきあっていくのが本来では?という安達さん。建築家と農業家、ふたつの視点で、地域に深く根をはる仕事に思いを馳せている。
〈筆者プロフィール〉
中島信哉:株式会社イケダコーポレーションの営業として、
現在は東北6県と北海道を担当。仕事のかたわら始めた
サインペン画やマラソンが話題に。
【2017年6月 北海道住宅新聞掲載】