木造の公共建築に選ばれる塗料とは?
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コラム
日本では、伝統的な建築として木造建築が多く見られましたが、戦後西洋からの影響などもあり、コンクリートや鉄骨が主流になりました。近年、世界的にも木造建築が注目を集めています。日本でも住宅だけでなく公共物件にも採用される事例が増えており、特に幼保施設など人を育む場所への採用も多く見られます。
なぜ木造建築が見直されているのか?また木造の公共建築に適した安心安全な自然塗料とはどのようなものかをご紹介します。
今、なぜ木造建築か?
戦後の人工林の植林により森林が成熟期を迎えている中、木材自給率がなかなか上がらず、日本各地の森林は適切な手入れが行き届かない状況下にあります。
森林は、国土の保全機能として、きれいな水の供給や土砂崩れなどの災害防止などの役割を担っています。また経済面でも国内の豊富な森林資源の活用による地域の雇用を創出し、林業で地域経済を活性化することが望まれています。国土面積の約3分の2が森林である日本は、先進国の中でも3番目に森林率が高い国ですが、木材自給率は36.6%(2018年)しかありません。同レベルの森林率を有するスウェーデンでは木材自給率が100%を超えており、GDPの約3%を林業が占めます(日本は同0.04%/2018年)。
そこで、適切な木材利用と供給を確保することで持続的な林業の発展を図り、適正な森林の整備と木材の自給率を向上させるために、2010年10月「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が施行されました。木材需要の約4割(施行当時)を占める建築物の中で、木造率が低く潜在的な需要が期待できる公共建築物での国産材の利用促進に、国や自治体が率先して取り組むこととなったのです。「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」の施行から9年以上が経過し、国の積極的な木造化の推進によって、公共建築物の木造率は着実に上がっています。
2018年度に着工された公共建築物の木造率(床面積ベース)は13.1%(2010年度は8.3%)となり、その中でも低層(3階建て以下)の公共建築物については、木造率が26.5%(2010年度は17.9%)となりました。建築主別では国や自治体などより民間事業者の木造比率が高く、民間事業者が主体となった低層(3階以下)の医療・福祉施設、幼稚園・保育施設などで木造の採用が増えています。
また、「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」では公共建築物での木造化が難しければ、内装等の木質化、備品や消耗品としての木材利用、木質バイオマスの利用を促進することなどを推奨しています。
事業者だけでなく施設利用者にとっては、公共建築物の内装等の木質化により、健康面でのメリットを享受できることが科学的にも証明されています(※1)。
建物本体だけではなく家具などにも地域材や間伐材を使うことで、室内空気を汚染する化学物質の発生を抑え、快適で居心地の良い空間を作ることができます。公共建築物に地域材を用いることは居心地の良い空間を増やすだけでなく、地域経済を潤し、暮らしやすい地域づくりにも結び付きます。
民間事業者が木造を採用する理由
民間事業者が木造を採用する理由は、健康や環境への配慮をしているだけではありません。低層でシンプルな形状の木造建築物であれば、鉄骨造や鉄筋コンクリート造に比べて「工期が短い」「住宅用の一般製材を利用すれば建築コストも抑えられる」というメリットがあります。
また、木造建築物は減価償却する法定耐用年数が短いため、年度ごとの減価償却費が大きく計上できます。
適切な設計・施工で建てられた木造建築物は、法定耐用年数よりも実際の寿命は長く、鉄筋コンクリート造などよりも固定資産税は低いなど、事業者にとって税制上のメリットがあります。
ここで、木造に関する一般的な不安についても解消しておきましょう。
不安①「木造は地震に弱い」
建物の耐震性の決め手になるのは、木やコンクリートなど「どのような材料で構造設計をしたのか?」ではなく、構造の種類が何であろうと「耐震等級に適合する構造計算を行い設計すること」です。木造なら他の構造に比べて耐震性能を高める方策が多く、コストを調整しやすい面もあります。
鉄筋コンクリート造などに比べ建物が軽いという点で、建築物の構造躯体や骨組みの各部分にかかってくる、外からの力(外力)のリスクが鉄筋コンクリート造などに比べて小さくなります。
不安②「木造は火災に弱い」
木は鉄などに比べれば、火が起こりやすいのは事実です。しかし、火災は構造躯体から燃え始めるわけではなく、室内の物に引火して発生します。建物の構造に使われるような厚みを持つ木材は、燃焼による強度の低下が鉄よりも遅く、建物の倒壊速度を遅らせます。
また、火災でより危険なのは直接的な「炎」ではなく、「煙」の吸引により一酸化炭素中毒などを起こして身動きがとれなくなることです。可燃性が高く、有毒ガスなどを発生する家具や建具を、室内になるべく置かないことも重要です。
木造はその他の工法に比べて気密や断熱を高めるコストも低く、建設時の空調コストを抑えて快適な温熱環境を実現できるなど、室内での居心地の良さを優先する施設には多くのメリットをもたらします。木造の公共建築物が増えることで、耐火建築や耐震についての技術情報の共有機会は増えており、後述する一般社団法人 木造施設協議会でも民間事業者向けの施設見学や適切な設計・施工者の案内を行なっています。
木育の観点から
木造建築が公共物件へ採用される際、木のもつ特性や木を建物へ使うことの影響力にも着目されます。
国土交通省が木材利用を促進する傍ら、林野庁では林業と木材産業の発展のための一環として、木育(もくいく)を推進してきました。木育とは、「木を使うことで新しい森を育てることに繋がる、きっかけづくりをする活動のこと」をいいます。
木育は子どもから大人までを対象としており、全国で様々な自治体や団体が取り組んでいます。中でも保育所や幼稚園などの施設では、木を使った居心地の良い空間づくりだけではなく、木のおもちゃや工作を通じて想像力を高める木育の活用事例が増えています。
子どもが木から受ける五感への刺激で、普段の行動に良い変化が見られることもあり、木育の広がりを後押ししています。
<木がもたらす子どもへの刺激>
子どもは地面や床の近くで遊び、口に手や物を入れたりします。大人よりも多くの空気を吸い込み、化学物質や環境の影響を受けやすいという点からも、木は子どもにとって身近で安心できる素材と言えます。
自然塗料が選ばれる理由
木造建築が増えるとともに自然塗料が選ばれる機会が増え、特に幼保施設には公共建築物の木材利用促進や木育の推進を背景に木造建築や内装木質化を採用される事例も増加しているため、木材保護に“木の特性を活かしながら機能性を保つ”自然塗料が選ばれることが多くなっています。(参考ページ:→自然塗料の種類)リボス自然健康塗料は室内環境が重視される保育所や幼稚園などの他、公共建築物でも多くの採用実績があります。安心・安全なことはもちろん世界各地での実績とともに、メーカーの変わらぬ企業努力や姿勢なども評価されています。
保育所や幼稚園に採用される大きな理由としては、機能面の他に「なぜ、リボス社がドイツ最大手のメーカーになったのか?」という過程にもあります。リボス社の前身は、「シュタイナー教育」などで知られる、ルドルフ・シュタイナーが提唱した「自然と調和し人を育てる」という人智学(アントロポゾフィー)の観点から、クレヨンや絵の具などの教材の開発・提供に取り組んでいました。16人の創業メンバーは全て女性で、自然界の色彩を取り入れた鉱物顔料や、子どもが誤って口に入れてしまっても安全な原材料を研究していました。1972年、当時教員だったメンバーの一人が職場である学校に行くと、気分が悪くなるなどの不調を訴えたことが契機になり、室内に使われる建材などからホルムアルデヒドなどの有毒な化学物質が揮発していることを突き止めました。
それまで子どもの教材のために使っていた様々な研究を、より大きな問題である室内環境改善のために活用し、世界初の自然塗料の開発に結び付けたのです。以後50年近く、リボス自然健康塗料は人体に有害な化学塗料に替わる安心・安全な塗料の開発に努め、たとえ自然素材でもリスクの考えられる原料は排除し、健康を最優先して作り続けられています。消費者が手にとって自分で成分を確かめられる様に、個別商品ごとの完全成分表示も行なっています。さらに、リボス自然健康塗料は塗料自体の安全性が高いだけではなく、塗装の際は伸びが良いので塗りやすく、木にも浸透しやすいという特徴を持ちます。
木を活用した施設は適切なメンテナンスを定期的に行えば、愛着を持って長く使用し続けることができます。施設によってはメンテナンスの専門業者ではなく、事業者と利用者が自らメンテナンスをすることもあるでしょう。リボス自然健康塗料を実際に使用した福島県のやまつりこども園(有限会社辺見設計)では、職員や保護者だけではなく子どもたちと一緒にメンテナンスを行い、園舎に愛着を持って大切に使われています。
“木の香りや経年変化がある園舎で子ども達はいきいきと過ごし、定期的なイベントとして行うことで、園児も楽しく木のメンテナンスに参加できるように心がけています。”
(イケダコーポレーション発行小冊子:「春夏秋冬、健やかな木とともに」のインタビューより)
幼保施設だけでなく、人が集まる一般公共物件に「安心・安全」に加えて「木のよさを活かし、美観を永く保つ」という理由からも選ばれています。
→参考施工事例:令和元年度 木材利用優良施設コンクール・内閣総理大臣賞受賞
「屋久島町庁舎」(株式会社アルセッド建築研究所)
イケダコーポレーションの取り組み
イケダコーポレーションでは木造建築普及のために、地域材・間伐材を利用した学校づくりや地域の木造施設建築に取り組む団体と連携した活動も行なっています。2019年には地域材を活用した田辺市立新庄小学校(和歌山・設計:共同設計株式会社)の視察ツアーを開催し、リボス自然健康塗料が採用された木造校舎だけではなく、地域材の伐採から製材過程までを視察しました。(→レポートはこちら)
一般社団法人文教施設協会では、学識経験者や設計者・施工者と共に、安全・安心な学校施設づくりのための、木材保護塗料の安全情報や技術紹介などを行なっています。また、一般社団法人 木造施設協議会では、地域の木造施設を通した地域循環・地域貢献を目指す、事業者や企業・設計者・施工者と共に、幼稚園・保育所・福祉施設などの低層建築への木材活用を働きかけています。
自社の活動としてはBigセミナーの開催を通じて、ドイツから中大規模木造の実績が多い建築家を招聘し、ヨーロッパでの最新事情や技術情報の他、国内の木材利用での地域活性化をテーマとした情報発信を行なってきました。また、実際にエコ先進国であるドイツやスイスでエコロジー建築を視察する、エコバウ建築ツアーは今年で24回を迎え、歴代の参加者の中には地域の木造建築に取り組み実践されている方も多く見られます。
今後、地域で連携して地場材の付加価値を高め、地域経済の活性化を図るという事例はさらに増えることが予想され、できる限りの情報共有の場を設けています。
最後に
日本の林業活性化や木材の利用促進は財源を必要としており、2024年より住民税に1,000円/年(1人当たり)を上乗せした森林環境税の徴収が始まります。
環境面や健康面以外にもコストや耐久性などのメリットが多い地域材の活用で、次の世代へ引き継ぐ負担をなるべく減らしたいものです。木造・内装木質化のメリットを知り、地域材を活用することは、木材需要の多い建築業界や公共事業に携わっているからこそできる地域貢献でもあります。
木の温もりや素材感が感じられる施設は、地域でも長く愛される公共の場になり、身近な環境を守り続けます。木材を用いて建てる施設には、木の調湿性などの特性を生かしメンテナンス性も良い、リボス自然健康塗料が選ばれています。
(参考URL)
(※1)林野庁「科学的データによる木材・木造建築物のQ&A」
公益財団法人日本住宅・木材技術センター>建てるのなら、木造で −身近なまちの建物から中大規模建築まで−
一般社団法人木を活かす建築推進協議会>木を活かした 医療施設・福祉施設の手引き
筆者プロフィール