第18回 (2014)|エコバウ建築ツアー報告記
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イベント
コラム
エコバウ建築ツアー2014は、ドイツ・スイスのパッシブハウスを中心にエコ建築を訪ねて回りました。
古い建物を継承しながら新たな価値を吹き込み、さらに進化させる人と環境に優しい家、街づくり。
その中での各メーカーの役割や重要性を学び、木材を始め自然素材が改めて見直されはじめているということを肌で感じました。
今回は時系列ではなく、国・地域に沿ったツアーの概要レポートをお届けします。
「新建ハウジング」掲載記事も併せてお楽しみください。
・最大手不動産業者がビジネス面からパッシブに特化
・WOOD Renaissance(木材復興) エネルギー革命
・次世代の家づくりを目指す
ツアーレポート
tour report
スイス、ドイツの住宅事情
●2011年原発禁止を決議
●2020年までに深夜電力利用の暖房機器、給湯機器を交換義務
消費エネルギーの20%を再利用義務化(地熱、下水熱など)
●2050年までに住宅の消費エネルギー約90%削減
●再生エネルギーで100%発電⇒暖房、給湯の石油消費量 1990年12L/住宅㎡ ⇒ 2008年4L減少。最新パッシブ住宅では1Lに減少
⇒これらが進んだことで、住宅の資産価値として省エネ性能が注目され、結果的にパッシブハウスが大きな住宅ビジネスに成長
スイスでは
●ミネルギーを1994年より公共建築で義務化
●ミネルギーPエコを2006年に義務化
⇒省エネだけでなく、自然光の利用、騒音の低減、自然素材建材の利用、生産エネルギーの低い建材の使用を義務付け
●ミネルギーA(アクティブ)2011年住宅で開始
⇒熱ZEROエネルギー建築、断熱は発泡断熱以外で20cm以上、暖房、給湯、換気は100%再生エネルギーで賄う、窓U値0.8以下
●2014年ニアリーZEROエネルギー住宅達成、それ以降をエネルギープラス住宅へ
スイスではゼロエネルギー住宅にめどが立ち、プラスエネルギー住宅を次の目標にしている。
※プラスエネルギー住宅とは、給湯、暖房だけでなく家電、自家用車まで含めたエネルギーを自家発電でまかない、更に売電する事
●消費エネルギーの大幅削減で微量のエネルギーが主役になる
⇒体温、地熱、下水熱、排熱、地下水がエネルギー源
●ハイパワーの原発、火力発電を不要にするエネルギー防衛
パッシブハウスの定義
15kw/㎡以内の省エネ性がある住宅で、冬でもほぼ暖房を使わない家。その上で必要なエネルギーや照明を自然の力で賄い、人間が将来も快適に健康に暮らせる環境を作る。元々はオーストリアのインスブルックの建築家が提唱した。
ABG NOVA(エネルギー効果イノベーション)
ABG Holding フランクユンカー氏
1990年以降パッシブ建築を実践。現在ドイツ連邦の関係から、一般集合住宅を中心に建設。
2006年スタートのパッシブハウス規定のモデル的建築を完成。以来、過去物件のパッシブ改修工事、30,000件のビルのパッシブリノベーションの実績を持つ、業界最大手。
エネルギー効果の高い建築を推進するために、古い建築の節エネ化に設備更新を行う。社会全体でCO2削減の大きな効果を持たせるためには、戦後の経済成長時代の集合住宅の窓の断熱化などパッシブハウス化を進めることが重要。
新築については、すべてパッシブハウス化し、暖房費40%削減の建築を実践。断熱性能の改善だけでなく、放熱するエネルギーのロス分を再利用し、2千2百万Lの石油と5万tのCO2削減に成功した。150㎡の住宅で100kw/年、CO2 4,4t消費(1995年)を、現在15kw/年、CO2 0.66tと85%省エネの住宅を建築。
CAMPO Bornheim(カンポボ ルンハイム)見学
am Bornheimer Depot1890年の路面電車の車庫の跡地改装が建築賞を受賞。
20世帯居住面積60〜120、135㎡ 家賃2500−3000EUR 分譲2/3、賃貸1/3。
隣接する低所得者向け集合住宅では、パッシブ性能とゲオメティック(放熱再利用システム)で暖房費がほぼ不要で人気が高く、入居待ち住宅になっている。通常150ユーロ/月の暖房費がこの集合住宅では6〜8ユーロ/月の低コスト。
ACTIVE House
−次の世代の家づくりに向かって
パッシブ性能でゼロエネ化した上で風力、ソーラー、放熱再利用で創電するエネルギープラス住宅。住宅のエネルギー問題の視点で考えるのではなく、社会全体のエネルギー問題を住宅が解決して行くという方向性で家づくりを考える。余剰電力をEVの充電や施設の電気に使用し、地域自家発電化する。そのための家づくりの基本として集合住宅化が重要。
新しい試みでフランクフルトの中心部にSpeicter Strasseを2015年完成で建設中。高層集合住宅の日射の問題を構造と壁のソーラー、蓄電などを組み合わせることで解決する住宅。屋根と壁のソーラーですべての電力をまかなうことが可能なうえ、余剰電力10%が生まれ、EVの充電まで可能になる。さらに下水熱の暖房への再利用で17〜18度の下水が28%もの余剰電力を生むことにつながる。建築コストは通常の建設に対してわずか5.8%増で実績が増えれば将来さらに下がる可能性がある。
ZUB−フラウンフォッファー研究所の関連施設
19世紀の繊維工場のパッシブリノベーションで従来のエネルギー消費量に対して1/8〜1/10削減に成功。2020年には0エネ住宅を目指している。3人の有名な建築家がかかわっており、その一人がインスブルックのヨルダン氏でパッシブハウスのキーマン。
30㎝のポリ外断熱と日射効果を高めるためコンクリートの外部と内部をつなぐピラーで暑さの放熱などを行う。内装壁は生粘土のレンガを再評価で空気環境と湿気対策を行う。焼成しないためCO2の削減ができる。実験棟としての機能もあるので、CO2センサーで空気環境のチェックとコンピューターによる自動調整。
ごみの燃焼、地下水を循環させ冷水温水で温度調整。建物の放熱の80%を再利用行い、8000L/時の熱交換空気を供給している。結果、空調は不要。
一次エネルギー減
発電は送電で2/3が失われるので一次エネルギーで考えると非常に効率の悪いエネルギーである。そのために化石、原発発電を自然エネルギーで地域発電に変えていく必要がある。家庭で消費するエネルギーの大幅削減が重要。
ENAVは建築で3〜4L/㎡のエネルギー使用量を目標にしているが、実現は近づいている。ソーラーへの補助は昔の話で、現在はウッドペレットの補助が始まっている(ウッドルネッサンス)。
今後の課題として経済とエコをリンクさせ広げていく事が重要。ドイツは800万人の国民が何らかの環境団体に入っており環境意識が高いことで成功しているが、その他は経済性、ビジネス性を強調することがエコを成功させるコツ。他国ではエコへの関心が低く、経済的にも余裕がないこともあり、社会と地球のエコを考える意識は非常に低い。
エコ住宅発祥の地
メンテ教授設計 のエコ住宅
1980年代に考えうる限りの技術と素材を駆使して建てられたエコ住宅。粘土、セルロース断熱など自然素材、屋上、庭緑化、窓断熱など多様でパッシブ化を図った。
リボス社視察
ボーテ氏 サイモン氏
新商品の紹介アメロス(AMELLOS)塗りつぶし、DUROさび止めのレクチャー。リボス社の歴史と理念セミナーを聴講。
環境建設省都市計画課
ゴチョウフ氏
825年開港のハンブルク港を中心とした倉庫街、港埋立区域のエコロジーと水をキーワードにした再開発計画の説明。住居区域はパッシブハウスを基本とした集合住宅を建設。完成は2020年を予定している。
この地域は、貧困層が住む犯罪率の高い地域で、最も敬遠される地域であったが、中央駅に近く住職近接の可能性が残された地域であることから再開発が決まった。歴史ある倉庫街や水辺、高速へのアクセスなどインフラもあり完成後は非常に人気のあるエリアになる予定。
環境省主導で実験的な住宅街、実験的な設備を作り、先進性のイメージとパッシブハウスで未来の街として広めていく。新設計の地下鉄駅、フューエルセル(水素発電所)などの話題性のある施設を誘致を行なっている。
1件目:防空壕のリニューアル−堅牢すぎて壊せないナチス建築の防空壕を環境センターとして活用。屋根のソーラーで近くのIBA住宅へエネルギー供給。
ソーラー3%、バイオガス発電17%、木くず発電47%、工場排熱の再利用で3000世帯の電力と給湯を供給。
ハーフェンシティ大学
一つの建築から地域のパッシブハウスへの取り組み
ドイツ建築や土木工学を学べる公立大学。建築学科を中心に4つに分かれていた学部を一カ所に集中して港再開発地区内に建設された。90の建築家のコンペで選ばれた。空調、照明、換気などをすべてAIで自動制御し省エネを実現。
グリーンピースハンブルク支部
ハンブルクの船会社オーナーのナーゲル家のご子息の寄付により、ハンブルグ港再開発地区にフロアー3万㎡で建設。最高レベルのパッシブハウスの為、基本的なエネルギーはすべて屋上の自動追尾型のソーラーと風力、地下12mの地熱パイプからのエネルギーでまかなわれる。建築費は10%アップだが、ランニングコストで十分カバーできる。
ウッドキューブ
循環素材だけで建てられた住宅。構造と断熱はチームセブンの構造と同じく、重ねたマッシブウッドを木ねじで固定し、構造と断熱を兼ね合わせる。外断熱は木繊維断熱材に。
港再開発地区から倉庫街の見学
スイスのコラー氏のもとでケーニッヒはエコ収支を勉強。ドイツ政府のプロジェクトに生かしライフサイクル建築コストのソフトであるLEGBを開発、省エネと同意に快適性も評価できるようになる。ドイツでは50年単位で建築の持続性を評価される。スイスではスタートは遅かったが2010年頃からミネルギーECOで超省エネの木造建築がはじまった。スイスでは木造住宅の歴史が長いが、第二次大戦後砂岩やレンガに変わった。しかし最近は見直しが進み公共建築、住宅で木造化と省エネ化が同時に進んでいる。
〜ツアーコーディネーター ホルガー・ケーニッヒより〜
巨大建材メーカーのSTO社は自然素材建材メーカーを買収してはつぶすという戦略でエコ建築の広がりを妨げ、シェアーを広げている。また化学的な建材、特に外装材はカビや藻の防止に薬剤を大量に含むので、雨により土中に化学物質が浸透し土壌汚染が進んでいることが調査の結果判明した。
スイス チューリッヒ
リギ山とルツェルン湖を経て物件見学へ
HAGA社(スイスウォール)トーマス ビューラー社長案内
古い農家をB&B民宿にリノベーション。アグロツーリズムをテーマに農村体験とルツェルン湖畔の景観が楽しめる。無断熱のレンガ造りの農家を、景観保護の観点から、本来外装に使う断熱モルタル 、ビオテルムを内装の下地として、仕上げにカルクウォール0.5㎜フラット仕上げ。断熱とカビの問題を解決。昔はこの地方で牛小屋は漆喰で塗ることで乳牛の健康と牛乳の雑菌混入を防いだ
ビオテルム bio therm仕様 (HAGA社オリジナル漆喰)
成分:石灰、白セメント、パーライト
重量:25kg/平米20cm
一回あたり5cmを、3〜4時間ごとに最大4〜5回塗りで断熱改修とカビ防止。ラム値0.06(ロックウール、発泡断熱0.03)断熱性は劣るが呼吸性、カビ殺菌性を持つ。コルク入りが外壁用、コルクなしが内装用。
セッツ建築設計
HAGA社のルッパーズビル村にある設計事務所。新築パッシブ住宅またはパッシブ改修のみ設計。実績として大半の住宅でエネルギープラス住宅に成功。住まい方でどれだけプラスになるかは変わるが、意識の高い世帯で消費エネルギーの2倍のプラス、意識の低い世帯でも若干のプラスで売電できる。
すでにスイスでは売電ではなく、自家発電したエネルギーをすべて自家消費するという方向に移ってきている。スイスは冬の日射が少ないのがパッシブにとっては課題で、現状11月〜2月の4カ月の間はエネルギープラスは難しい。しかし、その他の8か月は大きなプラスになるので、今後蓄電池などの設置で年間電力をまかなっている。
ソーラー発電の経済性:10.7kwソーラー 設置コスト3万フラン 、30年耐久の場合0.18フラン/kwで安い電気と対抗できる。次のステップとして賃貸住宅のプラスエネルギー化が可能かどうかの実証実験中。
プラスエネルギー賃貸住宅の見学
3世帯総床面積396㎡の賃貸住宅。家賃は20万/100㎡+だが光熱費は必要なく快適で、非常に人気。自家発電は20kwのソーラー、地熱12℃を使った地中熱ヒートポンプ【設置コスト450万】、スマートメーターで全エネルギーをまかなう。⇒住まい方にも影響受けるので、電気の使用量の少ない世帯にはインセンティブを設けている。
環境アリーナ
スイスでは住宅は冷房しないが、産業用建築では一部で冷房するが、エアコンではなく地下水を循環させて冷房する。ミネルギー住宅のための断熱材、窓、家電などを住宅形式で展示し、住宅の燃費量を石油のボトルで表示し、断熱材やサッシの種類などの違いによる燃費性能を消費者にわかりやすく展示。特に建材大手のSTOが外断熱の展示で積極的で、その他BOSCH など大きく展示されており、省エネ住宅が一大産業に育ち始めていることを感じる。
パッシブハウス住宅 ステファン ミューラー氏
ミューラー氏の個人住宅見学
ドイツパッシブハウスのメンバーで、チューリッヒ地区の理事。パッシブハウスジャパン森さんとも連携。換気の配管業者で、パッシブ専門の配管屋としてビジネスを展開。チューリッヒでは2000〜3000戸のミネルギーP住宅が認定され建っている。 ドイツ、オーストリアでは自己申告制でスイスは厳格でハードルが高い。
10年前の試行錯誤の結果のパッシブハウス。南面一杯の大きな開口部をトリプル樹脂サッシと35㎝のロックウール断熱材を使用。熱交換の空気吸入は外気を取り入れた後、住宅の地下をパイプで通し、12℃程度の地熱で温めたのち熱交換させるのでより効果が上がる。
ソーラーは50㎡ありEVの充電までまかなう、実質的にプラスエネルギー住宅に成功。U値―壁(0.1)、窓(0.2)、窓枠(0.7)、屋根(0.1)と今後は窓枠や排気を効率化させることでさらにプラスエネルギーになる。最新のミネルギーA(アクティブ)では換気効率が悪いのでキッチンはIH調理器で、排気フードは取り付けない。結果として建設コストは10%アップだが年間200〜300フラン/300㎡の電気代しか必要ない。参考までにこの地域は夏30〜35度、冬-10度になるので、決して冬だけでなく、夏の暑さでも機能するパッシブハウスになっている。
小ネタで、桂離宮の建築を参考にしたデザインとのこと。
ミネルギーPエコ 賃貸集合住宅
ステファン ミューラー氏
6世帯入居。コンクリートと木造のハイブリッド工法でミネルギーP認定住宅。35㎝のセルロース断熱と枠のほとんど隠れるトリプルサッシを装備。外壁はパネル工法で内装パネルから断熱材、外装材までプレハブ化し外壁施工期間はわずか1週間。
300m地中の地熱利用とソーラーで売電。その結果家賃600フラン/月と周辺地区に比べても安くできる。ミネルギーP ECOはパッシブ性能だけでなく、自然素材、自然光、建材の周囲25㎞以内のリサイクル材使用など厳しい規制がある。ピエールホネカー氏が設計で省エネ設備としては、オーニングの日射と風への自動制御、換気装置の二酸化炭素濃度に対する自動制御にAIを使用し、最適な環境を作る。
Pictures
ツアーコーディネーター TOUR COORDINATOR
Holger Konig ホルガー・ケーニッヒ
1951年ミュンヘン(ドイツ)に生まれる。ミュンヘン工科大学及び大学院で建築を学ぶ。1983年にエコロジー建材店や家具工房を設立後、設計事務所も主宰し、建築家、家具職人、建材流通の多様な経験を持ち、バウビオロギー・バウエコロジーを踏まえた住宅、幼稚園、学校を数多く手がける。
主な著書としてドイツでベストセラーとなった「健康な住まいへの道」(1985年初版・1997年第9版)があり、2000年に日本でも翻訳、出版される。1996年から2001年まで、自然建築材料の建築業者の集まりであるÖKO+ AGの取締役会の議長を務める。以降もそれまでの経験を生かしたさまざまなバウビオロギーや木造プロジェクトの管理や研究を任され、現在も活躍中。
滝川 薫 Kaori Takigawa
環境ジャーナリスト・ガーデンデザイナー・MIT Energy Vision社共同代表
東京外国語大学イタリア語学科卒業後スイスに渡る。ベルン州オーシュベルク造園学校植栽デザイン課程修了。1999年から欧州中部の環境・エネルギー転換・建築をテーマとした執筆、視察セミナー、通訳・翻訳を行う傍ら、夫と共同で庭園デザインプログジェクトに携わる。東スイスのシャフハウゼン州在住。
単著書に「サステイナブル・スイス」、共著に「欧州のエネルギー自立地域」・「ドイツの市民エネルギー会社」、共訳に「メルケル首相への手紙」など
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