とうほく走り描き‖第24回 『 心地よい音のデザイン』
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コラム
第24回 『心地よい音のデザイン』
木曽 善元さん(木曽善元建築工房)
毎年5月に開かれる仙台国際ハーフマラソンは、1万人以上が走る人気レースだ。 やわらかい初夏の空気の中、普段は車でしか走れない市内中心部の目抜き通りを駆け 抜ける。コースのハイライトは、杜の都のシンボルロード、定禅寺通り。ケヤキ並木の下では、仙台名物の「すずめ踊り」の笛や太鼓がランナーを元気づける。沿道で応援しながら、少し気になったのが、イヤホンをつけて走るランナーの姿。余計なお世話かもしれないが、レース中は 必要ないのではないか?まわりの選手の足音や息づかい、新緑の木々を揺らす風、送られる声援など「音」も大会の雰囲気をつくっている。せっかくの「おはやし」が聴こえないのも、もったいない。 「音」は、室内環境を考える要素でもある。
秋田県湯沢市の木曽善元建築工房・木曽善元(よしゆき)さんは、音環境について細かく配慮した住宅設計をしている。吹き抜け空間を、吸音性の良い漆喰や土壁で仕上げるのは、不快な生活音の反響を減らすため。ときには天井などに吸音材も施工する。大学卒業後、仙台の設計事務所などを経て工務店である実家にもどり、短い期間だが大工も経験。自他ともに認めるオーディオマニアでもあり、反響板まで自作したという事務所併設のリスニングルームには、高性能のオーディオ機器が並ぶ。打ち合わせの後で、圧倒的な迫力の音を聴かせていただいた。いつかは仕事でも、本格的なリスニングルームの設計を手がけたいという木曽さん。そんなクライアントになかなか出会えないのは、イヤホンで音楽を聴くのが普通になってきているからかもしれない。「新しい音源にはスピーカーで聴きたくなるものが少ない。イヤホン視聴を前提につくられているのかも」と木曽さんは心配する。
交通規制されるシティマラソンでは、いつもの街では聴けない音に耳を澄ましてみたい。好きな音楽は、やっぱり大きな音で鳴らしてみたい。陽射しや風が気持ちの良い季節。心地よい「音」にも囲まれたいものだ。
〈筆者プロフィール〉
中島信哉:株式会社イケダコーポレーションの営業として、
現在は東北6県と北海道を担当。仕事のかたわら始めた
サインペン画やマラソンが話題に。
【2016年6月 北海道住宅新聞掲載】