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第19回 (2015)|【前編】エコバウ建築ツアー報告記

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    コラム

 

エコバウ建築ツアー2015は、各国の最先端のエコロジー建築から持続可能な社会を目指した取り組みや施策などを学び、国ごとの環境保全への意識の高さを体感しました。

 

今回は時系列ではなく、国・地域に沿ったツアーの概要レポートを前編・後編に分けてお届けします。

 

新建ハウジング」掲載記事も併せてお楽しみください。

 

・最先端のエコロジー建築
・進化型工務店の一つの形
・ジェネラリストの重要性
・エコロジー推進のバックボーン
・持続可能性ナハルティヒの本質
~これからの建築の心構えを考える~

 


「新建ハウジング」(2015年10月〜2015年12月)

 

ツアーレポート


 tour report

世代をつなぐナハルティヒのかたち(ドイツ)

ドイツと日本、同じ敗戦国で同様の復興、高度経済成長を果たしてきた両国。国土の広さや人口数に大きな差はないが、ドイツでは新築着工数が約20万戸/年、一方日本は、約90万戸/年(2015年時点)と大きな差がある。ヨーロッパでは、基本古い建物を改修して大切に住み続けるということが主流のため、ドイツでも新築着工数は多くないことが見受けられる。新築を建てる際には、省エネ施策に則り「持続可能な住宅」を目指し、性能を重視した住宅が求められている。改修する場合も、住宅・公共建造物にかかわらず、保全とエコロジーを意識して行なわれる。

 

ドイツの省エネ施策

2002年の「省エネルギー政令」発効以降、新築住宅はすべて低エネルギーハウスが義務化され規制されるようになった。

 

低エネルギーハウス 年間暖房消費量の規制計画
パッシブハウス基準 年間エネルギー消費量約90kwh/㎡
ゼロ暖房エネルギーハウス 24時間換気、年15kwh/㎡
ゼロエネルギーハウス 太陽光か燃料電池による⾃家発電
プラスエネルギーハウス 消費する以上の電⼒を発電・販売する

 

年間暖房消費量の規制計画

 

パッシブハウスとは

パッシブハウスはファイスト博士が提唱。無暖房ハウスを目指し、不要になる暖房コストを建築に回す目論見だった。90年代に断熱材メーカーらの後押しにより普及したが、結果として換気設備や床暖房など新たな設備投資が必要となる。しかし、省エネ建築の理解も深まり建築分野に新たな市場ができ、予算増も受け入れられ、国の基準としても採用された。

 

1980年のエコ住宅

メンテ教授設計エコ住宅発祥の地

当時の 考えうる限りの素材と技術を使ったエコ住宅。粘土、セルロース断熱など自然素材、屋上、庭緑化、窓断熱など多様でパッシブ化を図った。30年もの研究の結果、成功している大半の面とそうでない部分がわかってきた。

 

持ち家率

 

ドイツ 40~45%
ブルガリア、イタリア、ギリシャ  80%
アメリカ  65%
日本 60~80%(40歳以下では20%)

 

ドイツでは2020年までに集合住宅の5%、改修の33%を木造にすることを目標に定めた。木造は長持ちしないイメージがあり、以前は木造=低所得者のイメージだった。80年以降、プレハブ化したことで高品質になり、木造パッシブハウスが省エネ、エコの代名詞として定着しつつある。

 

近年のエコ建築のテーマ

エネルギー⾰命と微⼩エネルギーの時代へ。ナハルティヒ(持続性可能性)を追求し、ウッド・ルネッサンスを起こす。歴史を伝える活動(何を作り、何をどう残すか)とともにエコロジー建築を広める。

バロック様式の建築

“残す”をテーマに

シナゴーグ(ユダヤ教会)、ナチス台頭により1938~45年まで排斥されたが、80年代に入り復活している。行政の保護の下で着実に復活。こういった部分でも歴史と向き合うドイツの姿が垣間見れる。                      

 

嘆きの壁にインスパイアされたシナゴーグ

 

 

難民問題、ISテロを警戒し入場制限&ガードマン

 

アルコピナコテークの改修(ミュンヘン)

ミュンヘン工科大学 フロリアン ナグラー研究室

デザインはシンプルだが心を込めて自然を守るという理念が反映している。

・建築の3大要素を教えている(積み重ねる、組み合わせる、注ぎ固める)

・空間の利用ではなく同化する建築を目指す

・古い建物を新しい建物の調和・アンサンブル環境との調和

・地場産材の利用と地域資源(石材)の保護

・技術と建築の融合

 

ビジターセンター ダッハウ強制収容所(ドイツ ダッハウ)

設計:フロリアン ナグラー設計事務所

・1933年ナチスが刑務所として後の収容所となった最初の施設

・ダッハウ市民は戸籍にダッハウが残ることを嫌い、出産の際はミュンヘンで産むという長く暗い影を落としてきた。

・市民らがイメージ改善のため、戦後70年を経て歴史を伝える施設として改修

・建物をぐるりと囲む塀には傾きのある柱を用い、隙間による解放感とリズム感を出して開かれた雰囲気を演出した。

 

※フロリアン ナグラー氏は、2019年に弊社主催のイベント「BigSeminar2019」のために来日しました。

ドイツの歴史より

・福島原発事故は他人事ではない

・チェルノブイリ原発事故の際、数千キロ離れたドイツ南部の地域では偏西風に乗ってきた放射線を含む雨により汚染。伝統文化であった野生の猪肉を楽しむことができなくなり、マロニエの葉は今でも紅葉せずに汚く枯れる。

・台風の被害がなく、ゆったりと川が流れるドイツはひとたび汚染されるとなかなか元には戻らない。酸性雨による森の消失、石の彫刻の溶解。

スイス

ドイツと同様に国を挙げて省エネルギー政策に取り組み、スイスでは、3つの柱を立てて省エネを推進している。

 

①規制・・・2015年当時の規制基準は4.8ℓ(新築の1㎡あたりの暖房・給湯エネルギー消費量)

②ミネルギー基準・・・ミネルギー、ミネルギー・P(新築住宅の場合)

③断熱・省エネ改修の助成・・・一般住宅の5分の4が1990年以前に建てられている

 

2000W社会を達成のために建物単体から地区単位への視点にシフトしている。例として、チューリッヒのGreen cityは2000W社会を政策の上位目標に置き戦略的に取り組んでいる。

 

改修推進ツールとして建物のエネルギー証明書「GEAK(Gebäudeenergienachweis der Kantone)」を導入。

 

※GEAK証明書「滝川薫の未来日記」参照

建築家 ペーター シュルヒ氏の施工事例

 

・設立25年

・応用技術大学講師 兼務

・省エネ、改修、木造建築

・アトリエ5 ハーレンの集合住宅を手がけた建築集団

 

オーバーフェルドのコーポラティブ集合住宅(スイス ベルン)

10年の建築期間を経て2015年9月9日竣工。州の環境省長が参加した物件で、当初600戸の予定が経済危機を経てストップし、100戸のコーポラティブ住宅に変更。持続可能な木造RCハイブリット構造の住宅。カーフリー(カーレスライフ)が中心で自転車600台(大人は趣味用と2台持ち)。調理室・洗濯室・乾燥室・集会場・スカイランジ・コテージ・オフィス・作業場・防音室などが借りられる。託児所を2つ完備しており、公共部分は全て遊び場になっている。

新築二世帯住宅(スイス リベフェルド)

築10年のパッシブ2世帯住宅(RC×レンガ×木のハイブリッド構造)。北側に大窓を設け、木質断熱材と漆喰仕上げの内装で建物内の温度・湿度を保っている。エネルギー収支は得られないが景色など生活の質を重視している。

リノベーション賃貸併用住宅(スイス ベルプベルグ)

2010年に完成素た元製材所をリノベーションした賃貸併用住宅。若年層の夫婦のためコストを抑えることを重視し、外壁、開口の大きさは元のままで内断熱、高性能サッシに交換。子供や次世代のためにきれいな空気やエネルギーを残そうという意識が高まっている。

オーストリア

■オーストリアでは「未来の建築」プロジェクトを国で支援・推進している。その概要としては規定された対象に対し、入札を行い、以下の基準で選定される。

・建物の全ライフサイクルを通じて、より優れたエネルギー効率化を図る(パッシブ基準)

・再生可能なエネルギー源、特に太陽エネルギーの積極利用

・マーケットに対してのアプローチ、コスト面など意識した客観的な評価

・利用者に対しての教育(パッシブ住宅への対応など)

エコ建築設備のポイント

(断熱)

自然素材や環境負荷が少ないものを取り上げる

土壁による断熱 

レンガ断熱

ストローベル断熱(無処理のワラによる断熱)

オガクズ断熱     (75㎏/㎡圧で沈みを防ぐ。その他20の特許で防炎、防虫などの処理を施している。)

(窓断熱)

木製サッシ

 ドレーキップ

遮光(調光)システム)

簡易的な庇やルーバーから、季節や用途に合わせて光量を調節できるブラインドなど

夏は太陽光を遮り、冬は入り込むよう、光の入射角に合わせて設置した庇

 

(蓄熱システム)

電気や地熱、太陽から得た熱を蓄えるシステム。レンガや基礎蓄熱、水槽蓄熱、その他蓄熱材などを利用する。

 

集中制御により最適な太陽光の入射を自動制御する。上下で異なる傾きに調整できるブラインドがある。

レンガ 暖炉や床下暖房や蓄熱暖房機に使用

基礎蓄熱 主に夜間電力などを使い基礎のコンクリートや砂利層に熱を蓄えるシステム

水槽蓄熱 ソーラーコレクターや地熱から得た熱を水に蓄熱し、暖房や給湯に使用するシステム。

教会などの建築物は壁圧が50cm以上あり、壁自体が蓄熱材としての働きを持っている。熱伝導に半年を要するため、夏涼しく、冬暖かい。

 

 

(地熱利用システム)

地下の温度が一年を通して一定であることを利用し、空気との温度差で冷暖房や給湯に熱エネルギーを利用するもの。

 

 

(熱交換換気システム)

第一種換気(給気と排気を同時に強制的に行う)の時、排出される空気からその熱を回収して、新しく採り入れる空気に移す手法。換気に伴う冷暖房熱のロスを抑えることができる計画換気システム

(ソーラー・コレクター)

太陽エネルギーを熱エネルギーに変換する機器。主には空気を媒体とする空気式と水を媒介とする水式がある。

(ペレットボイラー)

太陽エネルギーを電気エネルギーに変換する機器。設置面積はドイツが世界1で日本は2番

(風力発電)

太陽エネルギーを熱エネルギーに変換する機器。主には空気を媒体とする空気式と水を媒介とする水式がある。

(空調換気システム)

 

(コージェネレーション・システム)

電気を取り出すための内燃機関または外燃機関等の廃熱を利用して動力・温熱・冷熱を取り出し、電気+αでエネルギー効率を高めるシステム。(燃料電池など)ドイツでは地域でコージェネを利用している例も多い。

(コア蓄熱冷暖房)

躯体内にパイプを張り巡らし、ソーラーコレクターや地熱利用システムから得た熱エネルギーを利用して、熱放射により冷暖房を行うシステム。

パイプ内に温水や冷水を流し、熱放射による冷暖房を行なう

(ルチード・システム)

遮光と断熱、蓄熱を組合せたシステムでファサード表面はガラスその下に太陽光調節の役割を持たせた断熱層、そして蓄熱層という構造を持つ。太陽光調節にはルーバーやダンボールなどがあり、夏は遮光、冬は太陽光が蓄熱層に届く仕組み

ダンボール断熱(50㎜厚)自消化剤を処理したダンボールの下に蓄熱層

 

 

青色のガラス面の下に断熱層がある

ギムナジウム 体育館兼公民館(ドイツ ディードルフ)

設計:カウフマン設計事務所・ナーグラー設計事務所

ケーニッヒ氏が携わった未来型多目的ホール。現在の最高レベルではなく、未来のスタンダードまで見越した傑作建築。

【特長】

・全自動環境コントロール・システム(温度、湿度、日射、光量、CO2、音響)

・素材(木造、LED、木毛板(木線板)、エポキシ・コンクリート(最小限のエコ洗剤で掃除できる)、採光調整ガラス天窓、外付けブラインド、床暖房)

・学ぶ場としての自主性の促進(教室前に静かで広い共用スペースを設けるetc)

・冷房不要 (25㎥h/人の大量の換気と地下熱)

・自動コントロールの外付けブラインド

・入光量調整ガラス天窓角度で反射、入光

・教室単位で人の有無を感知し調整

・データを取り最適化しているかを検証

 

 

高校の体育館でありながら、公共の共同施設として地域社会からの支持を得ており、公的資金を調達。建築としても最高のノウハウを確立した理想的な事例。

 


 

ジェネラリストの重要性

 

専門分野で考えるスペシャリストだけでなく、総合的に判断するジェネラリストが必要。広く全体を俯瞰し最適化する役割。高度なエコ建築は相互作用する複雑なシステムのため、関係者の調整や広範囲の知識や技術を有するジェネラリストが重要な役割を担う。

 

 

電力会社IZM オフィスビル(オーストリア ヴァンダンス)

設計:ヘルマン カウフマン設計事務所

電力会社のオフィスであり、環境同化建築ランドシャフトとして環境適応のため、電力会社でありながら省エネを先導している。原則として自然建材を利用し、木造建築としては世界最大。

太陽入射、雨対策、火災時の消防通路として庇を設け、延焼防止のため木、石、木と天井を区切っている。地場産材1200㎥を用いてトレサビリティーへの取り組みや、非汚染材全自動空調、ヒートポンプ、池の水循環装置の採用など、エコロジーでサスティナブルな建築になっている。

(使い勝手)快適性を追求し、静寂性 多国籍、気密事項の漏洩防止、部署間でも業務をわけている。作りつけ建具、オリジナル収納で整理整頓しやすく、机の上には何もない状態を保つ。ユニット・ペアガラス・パーテーションによる遮音、可変性を実現。

設計・施工に対する姿勢

徹底した準備管理により部材手配、工程管理を行い後期の遅れなどは皆無だった。

代々つたわる根底にある信念

「建築はひとつの大きな木家具と捉え、設計どおりに作る」

当初の計画から変更が生じるということは工期の遅延だけでなく、モノとしても不完全であるといえる。

 

 

\2018年のエコバウ建築ツアーでヘルマンカウフマン設計事務所を訪れました/

エコバウ建築ツアー報告記|第22回 (2018)

 

後編へ続く

 

 


 

パンフレットPDF

 

 

 Pictures 

 

ツアーコーディネーター TOUR COORDINATOR

Holger Konig ホルガー・ケーニッヒ

1951年ミュンヘン(ドイツ)に生まれる。ミュンヘン工科大学及び大学院で建築を学ぶ。1983年にエコロジー建材店や家具工房を設立後、設計事務所も主宰し、建築家、家具職人、建材流通の多様な経験を持ち、バウビオロギー・バウエコロジーを踏まえた住宅、幼稚園、学校を数多く手がける。
主な著書としてドイツでベストセラーとなった「健康な住まいへの道」(1985年初版・1997年第9版)があり、2000年に日本でも翻訳、出版される。1996年から2001年まで、自然建築材料の建築業者の集まりであるÖKO+ AGの取締役会の議長を務める。以降もそれまでの経験を生かしたさまざまなバウビオロギーや木造プロジェクトの管理や研究を任され、現在も活躍中。

滝川薫さん

滝川 薫 Kaori Takigawa

環境ジャーナリスト・ガーデンデザイナー・MIT Energy Vision社共同代表
東京外国語大学イタリア語学科卒業後スイスに渡る。ベルン州オーシュベルク造園学校植栽デザイン課程修了。1999年から欧州中部の環境・エネルギー転換・建築をテーマとした執筆、視察セミナー、通訳・翻訳を行う傍ら、夫と共同で庭園デザインプログジェクトに携わる。東スイスのシャフハウゼン州在住。
単著書に「サステイナブル・スイス」、共著に「欧州のエネルギー自立地域」・「ドイツの市民エネルギー会社」、共訳に「メルケル首相への手紙」など

 

<新著のご案内>

【新著紹介コラム】「欧州のビオホテル~エコツーリズムから地域創造へ」 滝川薫 著

 

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